判例タイムズ1457号などで紹介されている,JR西福知山脱線事故において業務上過失致死傷罪により強制起訴された歴代3社長に対し言い渡された最高裁の決定要旨です(最高裁平成29年6月12日決定)。

 

 

検察官役である指定弁護士が主張した過失の内容は,歴代社長たちは運転士が適切な制動措置を取らないまま進入することにより本件曲線で列車転覆事故が起こることを予見できたことを前提として,鉄道本部長に対してATS本件曲線に整備するように指示すべき義務があったのにこれを指示しなかったというものでしたが,最高裁は下記の点を指摘してそのような注意義務があったことを否定しています。

 

 

①本件事故以前の法令上,ATSに速度照査機能を備えることも,曲線にATSを整備することも義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかった。

②後に新省令等で示された転覆危険率を用いて脱線転覆の危険性を判別し,ATSの整備箇所を選別する方法は,本件事故以前において,JR西日本はもとより,国内の他の鉄道事業者でも採用されていなかった。

③JR西日本の職掌上,曲線へのATS整備は,線路の安全対策に関する事項を所管する鉄道本部長の判断に委ねられており,被告人ら代表取締役においてかかる判断の前提となる個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかった。

④JR西日本の組織内において,本件曲線における脱線転覆事故発生の危険性が他の曲線におけるそれよりも高いと認識されていた事情もうかがわれない。

したがって,被告人らが,管内に2000か所以上も存在する同種曲線の中から,特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が高い曲線として認識できたとは認められない。

 

 

当時,私は勤務先の法律事務所内で仕事をしていたのですが,たまたまテレビを付けたら事故ニュースが流れていて,悲惨な映像と次々と積みあがっていく死者数に慄然とした覚えがあります。