物品運送契約(運送人が荷送人から物品を受け取ってこれを運送し荷送人に引き渡すことを約束し、その結果に対して荷送人が運送賃を支払うことを約束する契約と定義されます 商法570条)において、運送人が運送品の受取、引き渡し、保管および運送に関し注意を怠らなかったことを証明しなければ、運送品の滅失、損傷又は延着について、運送人は損害賠償責任を負います(商法575条)。
当然のことといえば当然であり、民法の債務不履行責任と同じことを定めただけであると解されています。
商法
(運送人の責任)
第575条 運送人は、運送品の受取から引渡しまでの間にその運送品が滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は運送品が延着したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、運送人がその運送品の受取、運送、保管及び引渡しについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
民法の債務不履行責任とは異なる特則を定めた点がいくつかあり、一つは、運送人が大量の運送品を定額な料金で運送することに鑑みて、損害賠償額について特則が定められています(商法576条 特別損害の除外と損害額の算定の定型化)。
損害額は、引き渡しがされるべき地及び時における市場価格とし、市場価格がないときは同種類同一の物品の正常な価格により定めるとされています(1項)。このため、荷送人は、当該物品を売却していたら得られていたであろう逸失利益などの損害については商法575条に基づいては請求できないということになります。また、荷送人又は荷受人に何ら損害が発生しない場合には、運送人は賠償責任は負わないとされています(判例)。
運送品が滅失等したため支払う必要がなくなった運送賃は損害賠償額から控除されます(2項)。
また、運送人が故意、重過失の場合は、そのような運送人を保護する必要がないため、運送人は一切の損害額を賠償しなければなりません(3項)。
商法
(損害賠償の額)
第576条 運送品の滅失又は損傷の場合における損害賠償の額は、その引渡しがされるべき地及び時における運送品の市場価格(取引所の相場がある物品については、その相場)によって定める。ただし、市場価格がないときは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によって定める。
2 運送品の滅失又は損傷のために支払うことを要しなくなった運送賃その他の費用は、前項の損害賠償の額から控除する。
3 前二項の規定は、運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失又は損傷が生じたときは、適用しない。
特則のもう一つは効果品の特則についてで、実務上も時折問題になります(商法577条)。
貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送の委託に当たりその種類及び価額を通知しない限りは、運送人は、その滅失等についての賠償責任を負わないと規定されています(1項)。高価品は盗難等の被害に遭いやすい一方で、損害額も大きなものとなり、高価品であることの通知があれば運送人は相当な注意を払って運送に当たることができまた保険に入るなどの予防策を採ることも可能であるところ、そのような機会が与えられていなかった以上は責任を負わせるのは妥当ではないという価値判断です。
このような趣旨から、高価であることが一見してわかるような物については本条の特則は適用されないと考えられています(判例)。
高価であるかどうかは、交換価値、再調達費用、損害賠償額の大きさなどから判断されます(裁判例上高価品として認められたものとして、フロッピーディスク18枚について再入力費用が220万円であることから肯定した事例などがあります)。
高価品であることを運送人が知っていたときや運送人に故意又は重過失があったときは、本条の特則は適用されません(2項)。
(高価品の特則)
第577条 貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人は、その滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき。
二 運送人の故意又は重大な過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき。
なお、高価品の通知がなく、運送人が過失により運送品を滅失等させた場合に、契約関係に基づく商法575条ではなく、不法行為(民法709条)を根拠として責任追及できるかという問題があります。
この点、従来の判例は両者は別個の規定であり、不法行為による責任追及は可能であるとしていましたが、これでは、減免規定をした商法の趣旨を没却することになりかねないことから、平成30年5月12日に成立した改正商法587条では、原則として運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為責任についても、前記の特則や責任の消滅、除斥期間についての規定が準用されるものとしました(例外として荷受人が荷送人の委託による運送を拒んでいた場合を除く)。
商法
(運送人の不法行為責任)
第587条 第五百七十六条、第五百七十七条、第五百八十四条及び第五百八十五条の規定は、運送品の滅失等についての運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。
荷受人が異議をとどめずに運送品を受け取ったとき、直ちに発見することができない損傷等があった場合には引き渡しの日から2週間以内に運送人に対して通知を発しなければ、運送人の責任は消滅します(商法584条1項)。改正前の商法では運賃の支払いが責任消滅の要件とされていましたが、運賃が後払いであることも多いことを考慮して改正法では要件から削除されました。
運送人が運送品に損傷等のあることを知っていた場合にはこの限りではありません(2項 改正法により従来の判例を明文化したものです)。
商法
(運送人の責任の消滅)
第584条 運送品の損傷又は一部滅失についての運送人の責任は、荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、消滅する。ただし、運送品に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、荷受人が引渡しの日から二週間以内に運送人に対してその旨の通知を発したときは、この限りでない。
2 前項の規定は、運送品の引渡しの当時、運送人がその運送品に損傷又は一部滅失があることを知っていたときは、適用しない。
3 略
運送人の責任は、運送品の引き渡しがされた日から1年以内に裁判上の請求がされない限り、消滅します(商法585条1項)。
これは、改正前商法が1年間の短期消滅時効(運送人に悪意がある場合は5年の商事消滅時効)を定めていたのを、改正法により国際基準である1年間の除斥期間に改めたものです。
商法
第585条 運送品の滅失等についての運送人の責任は、運送品の引渡しがされた日(運送品の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。
2項以下 略
運送人の責任に関する規定については強行法規ではないため、当事者間の合意、約款により定めることもできますが、その場合は、不当に荷送人の権利を制限するものでないかどうかについて公序良俗や信義則の観点、消費者契約法の適否などが問題となり得ます。