判例タイムズ1427号で紹介された事例です(東京地裁平成28年1月29日判決)。

 

 

本件は、下痢や嘔吐の症状を呈した飼い猫(平成10年生まれのアメリカンカールの雄 平成23年6月初診 翌月死亡)の死亡につき、試験開腹術(本件手術)を行った獣医師について注意義務違反があったとして損害賠償請求がされたという事案です。

 

 

原告側が主張した注意義務違反の内容の一つとして、本件猫は高齢であったことから、生検の方法として本件手術を行うのではなく、負担が少ない内視鏡検査によるべきであったということが主張されましたが、裁判所は内視鏡による検査は範囲が限られる上、猫のような小動物においては全体に内視鏡を挿入することは腸管削孔の危険性が高く実際は技術的に不可能であることや、確定診断を確実に行うためには内視鏡による検査では不十分であり、試験開腹手術による必要があったこと、原告が猫の診察を受けさせていた他の6つの動物病院の中にも内視鏡検査について肯定的なところはなかったことなどから、本件で試験開腹術により生検を行ったことについて注意義務違反はないと判断しています。

 

 

その他説明義務違反や術後管理についての原告側の主張についてもすべて退けた上で原告の請求については棄却されています。

 

 

動物(ペット)についての医療訴訟という事案も数はそれほど多くはないものの、ペットに対する飼い主の愛着も大きいものがあることから、訴訟にまでは至らないとしてもそれなりの紛争事案というのは多くあるものと推察されるところです。