判例時報2458号で紹介されて事例です(熊本地裁平成31年4月9日判決)。
本件は弁護士法73条が問題となったものですが,弁護士が関与した事案というわけではありません。
弁護士法73条は,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行を業として行うことを禁止するという規定で,違反すると2年以下の懲役又は300万円以下の罰金という刑罰も規定されているものです(弁護士法77条4号)。
弁護士ではない者(非弁)が業として法律事務を取り扱うことは弁護士法72条で禁止されていますが,権利を譲り受けて自ら当事者として権利を実行することで潜脱することを防ぐための規程です。
弁護士法
(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
第73条 何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
弁護士法73条の趣旨が,みだりに訴訟を誘発したり,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生じることを防止することにあることから,判例上,このような弊害を生じる恐れがなく,社会経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には弁護士法73条に反するものではないとされています。
本件は,自らの単独名義であるマンションの居室に娘(被告)を居住させていた父親が,娘との間で紛争を生じて,娘が明渡しにも応じないことから,この物件を転売目的の不動産業者(原告)が,娘が立ち退かないことも考慮の上で安い値段で物件を買い受けた後,被告に対して明渡等を求めて提訴したというものですが,本件において,裁判所は,原告の買受は競売手続きなどに依ったものではなく,父子の紛争(占有権限の有無)に端を発して父親の利益を図る目的で行われたものであり,占有権限に争いがある場合に所有者から物件を譲り受けて明渡を実現し転売により利益を得ることは弁護士法72条の潜脱に繋がりかねないこと,占有権限を第三者に対抗できないような場合には(使用貸借など),不動産が第三者に譲渡されることで占有者の利益が大きく害される一方で譲渡した所有視野に対して損害賠償請求を行うことになるなどみだりに紛議を助長する恐れもあることなどを指摘して,本件物件の取得行為は弁護士法73条に反するものであり,明け渡し請求は権利の濫用に該当するとして不動産業者の請求を棄却しています(最終的には控訴後和解とのこと)。
・・・ただ,契約が虚偽であるとか足元を見て以上に安く(又は高く)買い受けたという事情があるのであればともかく,係争物件であることも踏まえて踏まえてそれなりに安く買っているわけで(平成18年築で約2500万円の物件を立退料やリフォーム代を考慮して約1200万円とのことです。また,この点を問題にするのであれば法律構成としては暴利による公序良俗違反による売買契約の無効→よって所有権に基づいての明渡し請求できないという構成になるかと思います),不動産業者が何となくかわいそうという気がします。
それはともかくとして,一般的に買受がされるとは思えない物件を買い受けしている業者というのはそれなりにいますが,例えば,共有持分などを買い取ってその後に共有物分割請求をして代償金を求めるようなビジネスをしている業者からの請求を受けた場合に対しては,弁護士法73条違反という反論を検討することになります。