和歌山地方裁判所 昭和48年8月1日判決
1 被後見人(本人)から訴訟を提起された場合も,後見人の欠格事由に該当すると考えられています。
そうすると,本人を事実上看護しているなどして支配している者が,判断能力の低下した本人を操って,本人名義で何らかの訴訟を提起すれば,その相手方となった者は後見人となることができず,欠格事由を作り出してしまうことができることになります。
2 この点が問題になった古い裁判例が本件です。戦前の旧民法の下での後見人の欠格事由に関するものですが,次のように述べています。
「被後見人に対して訴訟を為し、又は為したる者」とは、その訴訟係属が後見人選任の前後を問わず,また当該訴訟における原・被告たるの地位を問わないが、ただ単に被後見人との間に形式的に訴訟が係属したというだけでは足りず、その内容において、実質上被後見人との間で利害が相反する関係にあることを要すると解すべきである。
しかし,その請求原因たる事実が存せず、訴の提起維持を事実上支配する者において、請求が理由のないことを知っているか、知らないとしても知らないことにつき過失がある場合等特別の事情が存する場合には、後見人が右訴訟に応訴することはやむを得ない措置として合理性があるのみならず,被後見人の利益を害することにならないので、実質上利害相反しないものというべきである。」
そして,本件では,原告(被後見人)の母が,その請求原因事実の理由がないことを知っているか又は相当な注意をすれば知り得たに拘らず,原告の後見人の欠格事由を作出し,ひいては自分らの利益をはかることを主な目的として提起したものと推認できるとして,被後見人が提起した訴訟があったとしても,被告となった後見人には欠格事由に当たらないとしました。
【掲載誌】 判例タイムズ301号261頁
判例時報735号89頁