1 金融機関などが保証料を徴求した上で,取引先の売掛金の支払いを保証するというサービスがあります。売掛金与信ファクタリングなどと呼ばれています。
金融機関としては保証料を得られるうえ,保証対象となった先(主債務者になります)が金融機関に預金を有しているという場合に,万が一,主債務者である当該取引先が破産した場合,保証の履行によって主債務者に対して生じた求償権と預金債権と相殺することができれば,実質的に求償債権を回収し,損害の拡大を防止することができます。
主債務者である当該取引先が委託して保証する場合と委託しないで保証する場合とがありますが,当該ビジネスが,主債務者の信用不安に備えて掛ける保険のようなものである以上,わざわざ主債務者に保証の委託を依頼することがないことも多いでしょう。
2 まず,保証債務の履行によって主債務者に対して生じる求償権が破産債権となるかどうかについて,最高裁平成24年5月28日(判例時報2156号)は,,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(破産法2条5項)として破産債権となるとしています。
ただ,破産債権である求償権と預金債権とを相殺することができるかについては,委託を受けた保証か無委託保証であるかによって結論が異なるものとしています。
3 委託を受けた保証である場合
この場合は,「破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合には,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。」と判示して,相殺をすることができるとしています。
4 委託を受けない保証の場合
この場合には,「無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると,この求償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しいものということができ,この場合における相殺に対する期待を,委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。そして,無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。うすると,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。」として相殺は許されないとしました。
無委託保証について相殺により求償権の回収ができないという事になりましたので,今後,金融機関としては主債務者の委託を取り付けるなどの対応が必要になるものと思われます。