最高裁判所平成8年10月31日判決
1 事案の概要
共有物の分割協議が調わないため共有状態にある本件不動産について,共有者であるXらが,残る共有者であるYに対して,共有物分割等を求めたというものです。
Yは本件不動産について3分の1の持分を有するにすぎませんでしたが昭和48年以来本件建物にその家族と共に居住しここを生活の本拠としており,他の共有者であるXらはそれぞれ別に家を構えていてYが本件建物に居住することについて事実上これを容認してきました。
Yが本件不動産の単独取得(全面的価格賠償の方法による分割)を希望したのに対し,Xらは本件不動産を取得したいとの申出をしてはおらず,競売による分割を希望しました。
一審は本件不動産を競売に付して売得金を分割することを命じたのに対し,控訴審は民法258条の共有物分割の方法として全面的価格賠償の方法を採ることも許されると判示した上で、本件不動産をAの単独所有とし、Aに対し、Xらの持分価格合計550万円余の賠償を命じました。
2 最高裁の判断
概要として以下のように述べて,全面的価格賠償を命じた二審の判断を否定しました。
本件について全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情か存するか否かをみるに,本件不動産は現物分割をすることが不可能であるところYにとってはこれが生活の本拠であったものであり,他方,Xらはそれぞれ別に居住していて,必ずしも本件不動産を取得する必要はなく,本件不動産の分割方法として競売による分割を希望しているなど,本件不動産をYの取得としたことが相当でないとはいえない。
しかしながら,全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるのは,これにより共有者間の実質的公平が害されない場合に限られるのであって,そのためには,賠償金の支払義務を負担する者にその支払能力があることを要するところ、原審で実施された鑑定の結果によれば、Xらの持分の価格は合計550万円余であるが、原審はYにその支払能力があった事実を何ら確定していない。
したがって,原審の認定した前記事実関係等をもってしては,いまだ本件について前記特段の事情の存在を認めることはできない。
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事180号643頁
裁判所時報1182号287頁
判例タイムズ931号144頁