判例タイムズ1475号で紹介された事例です(東京地裁平成30年10月24日判決)。
本件は,「通勤経路が2つ以上ある場合はもっとも経済的かつ合理的な経路による」とする通勤手当支給の定めがある会社において,定期券代金が最安値の経路に係る通勤手当の支給を受けていた従業員が,通勤時間の最も短い経路による通勤手当を支給すべきであるとして,差額の支給を求めて提訴したという事案です。
裁判所は,通勤手当の支給要件について,「経済的」とは他の経路と比較して運賃等が低額であること,「合理的」とは他の経路との比較において所要時間が短いことを意味するとし,場合により相反することもあり得る「最も経済的かつ合理的」という要件に何をもって該当するかは一義的には決めることはできず,要件をさらに具体化する基準などがない以上は,従来からの運用実態などを考慮して判断せざるを得ないとしました。
その上で,本件では,会社が「最も合理的な経路」によって通勤手当を支給するという運用がされていたとはいえないこと,従業員が主張する「最も合理的な経路」でも10分くらいしか違いがないこと,それにも関わらず両経路の定期代相当額は1万円以上に上ることなどから,従業員の主張する経路が「最も経済的かつ合理的な経路」であるとは言えないとしています。
なお,本件の会社では,「最も合理的な経路」によって通勤手当が支給されていた従業員もいたものの,全国に営業所が102か所ある会社で相当多数の社員がいるうちの4名でに留まっていたことから,通勤手当の事務手続き上の誤りの可能性も否定できず,この点をもって「最も合理的な経路」によっる通勤手当を支給すべきだとはいえないとしています。