https://www.jiji.com/jc/article?k=2020100801122&g=soc
沖縄タイムス社(那覇市)は8日、新型コロナウイルスに関する国の持続化給付金100万円を不正受給するなどした総務局付課長の40代男性を、同日付で懲戒解雇したと発表した。
同社によると、40代社員は職業を偽り総合支援資金など計80万円も不正に借り入れていた。緊急小口資金20万円を不正に借りた関連会社の30代男性社員も懲戒解雇した。
(10月8日時事ドットコムから一部引用)
法律上は「私生活上の非行と懲戒」という論点が問題となります。
多くの企業では,就業規則において「会社の対面や信用,名誉を毀損したとき」「犯罪行為をしたとき」といった条項を設け,従業員が私生活上の犯罪行為を犯した場合にこの条項に該当するとして懲戒処分を課しており,本件も同様であるものと考えられます。
使用者の懲戒権は服務規律や企業の秩序維持を目的としているものであり,労働者の私生活を一般的に支配するようなことは出来はないという考え方から,上記のような懲戒事由の定めも有効としつつ,その適用範囲が広がりすぎないように検討するというのが裁判例の考え方とされています。
判例上の示された基準としては「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」と判示した判例があり(日本鋼管事件 最高裁昭和49年3月15日判決),この判例で問題となった日本有数の鉄鋼会社従業員が米軍基地拡張反対運動(砂川事件)の示威活動の際に特別措置法違反で逮捕起訴されたために懲戒解雇とされた事案において,破廉恥な動機や目的から行われたものではなく,刑罰も軽微なものに留まっていることや社員3万人を擁する大企業の中の工員という立場であったことなどが考慮され,「不名誉な行為をして会社の対面を著しく汚した」という懲戒解雇事由にはあたらないとされています。
同様に,深夜酩酊して他人の家にちん入したとして住居侵入の罪により罰金とされた従業員に対する懲戒解雇を無効としたという事例もあります(横浜ゴム事件 最高裁昭和45年7月28日判決)。
他方で,組合活動に関連した公務執行妨害罪に問われた従業員に対する懲戒解雇を有効とした事案(国鉄中国支社事件 最高裁昭和49年2月28日判決),鉄道会社の社員による痴漢行為について懲戒解雇を有効とした事案(小田急事件 東京高裁平成15年12月11日判決)などもあります。
本件に場合,給付金詐欺について追及するなどする立場であって,読者からの信頼性の確保が重要となる報道機関であるということや単なる形式犯やたまたま巻き込まれてしまったというような案件ではなく計画的な側面があることや動機が金がらみであることなどの事情を考えると,私生活上の行状とはいえ,事実であるとすれば懲戒解雇という判断も致し方ない面がありそうです。
