金融法務事情2142号で紹介された事例です(東京地裁令和元年11月15日判決)。

 

 

本件の事案は,遺言により指定された遺言執行者(遺言者の二男)が,遺言の内容(金融資産をすべて換価した上で必要な費用を差し引いて残金を法定相続人である原告である二男,三男,四男のうち二男と四男に2分の1づつ配分する)に従い,銀行に対し預金全額の払戻を請求したが被告である銀行が応じなかったため(原告が窓口で「三男から遺留分の減殺請求を受けている。」と告げたところ,銀行側は「遺留分減殺請求がされている場合は遺言執行者が遺言の執行をできるかどうか疑義がある。」として払い戻しに応じなかった。),訴訟提起がなされたというものです。

銀行側の言い分としては,遺留分減殺請求がなされると,預金債権について三男についても持分が生じることからその部分には遺言執行者の権限が及ばないのではないかということでした。

 

 

本件は,改正相続法施行日(令和元年7月1日)より以前の相続事案の為め,改正前の民法が適用となりますが,遺言執行者の権限について定めた改正前民法1012条は,遺言執行者は「遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」としており,改正後においては「遺言の内容を達成するため」という文言が付加されたその権限が明確化されたていますが,実質としては取り立てて変化はないものと解されます。

 

 

【相続法改正 遺言執行者の権限の明確化】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12405774061.html

 

 

本件において,裁判所は,そもそも遺言執行者は共有状態にある遺産について遺言執行のための権限を有しているものであり,また,遺留分減殺請求がなされたからといって,本件の遺言において記載されている遺言執行者の権限を定めた部分が失効するということにはならない,本件遺言が三男の遺留分を侵害するとしてもそれは金融資産の換価後の配分割合の部分に過ぎないことものであることなどを理由として,預金全額についての遺言執行者である原告の払戻権限を認めています。