判例時報2442号で紹介された事例です(東京高裁平成31年4月2日判決)。

 

 

司法試験の問題にでも出てきそうな事案ですが,本件は,特殊詐欺の事案で,指示を受けて被害者のもとに現金の受け取りに行った受け子が,被害者が慎重な態度を示してなかなか現金を自ら交付しないので現金に置かれた現金を持ち去った場合に,共犯者(被告人に頼まれて運転手役を務めた者)にも窃盗罪が成立するかどうかが争われたという事案です。

 

 

まず,受け子に成立する犯罪ですが,被害者に対して嘘を言って現金を交付させようとした時点で詐欺罪の実行行為の着手があったと評価されます。問題は,玄関に置かれた現金をそのまま持ち去った行為についての評価ですが,詐欺罪というのはあくまでも被害者が騙されて自ら財物を交付するという犯罪であるので,被害者が自ら交付していない以上,詐欺の既遂は成立せず未遂に留まり,被害者の意思に反して財物を奪ったという点で窃盗既遂罪が成立することになります。

 

 

問題は共犯者について問われるべき罪責ということになりますが,事前の共謀ではあくまでも「詐欺」についての共謀しかしていないので窃盗については罪が成立しないのではないかというのが問題になります。

この点については,事前の共謀にどこまでの範囲が認められるかという観点から判断することになり,本件では,犯行の動機や目的は現金の入手という点で同一,共通であり,欺罔行為を主たる手段として現金を取得するという点も共通しており実際に詐欺の着手までは行われ,被害者による現金の交付という点のみが欠けていたにすぎないこと,警察に築かれずに現金を取得することにこそ関心があり被害者に気が付かれないように持ち去ってはならないと考えていたとは認めがたいことなどから,受け子による窃盗は事前の共謀の範囲内にあるものと判断され,共犯者についても詐欺の未遂と窃盗既遂が成立するとされました。

 

 

なお,本件は一審では詐欺罪の成立について争われず共犯者の被告人には懲役4年6月の実刑判決が下されており,成立する罪については控訴審においてはじめて争われたものです。

控訴審の判決も一審同じ懲役4年6月だったのですが,控訴審では成立する罪が異なるとして一審判決を破棄したうえで改めて一審と同じ懲役4年6月を言い渡しています。

これは被告人にとっては大いに利益があることで,一審判決が破棄された場合は控訴期間中の未決勾留日数が全部算入されるため,実質的に刑期が短くなるということになります。

 

 

【控訴審での破棄と未決勾留日数の算入】

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