判例時報2440号で紹介された事例です(東京高裁令和元年7月11日判決)。

 

 

自筆証書遺言の形式的な有効要件は,全文,日付,署名の自筆があり押印されているかどうかのみですので,遺言が書かれていた紙に決まりはありません。便箋であろうが,チラシの裏であろうがそのこと自体はそれのみで無効となる理由にはなりません。

 

 

本件は,遺言者が残した2通の遺言の思しき文書があり(「平成14年文書」と「平成24年文書」),遺言者が保有していたマンションとその敷地,自宅建物の敷地などについて,「平成14年文書」では「土地のことは夫に任せます」「遺留分は長女と二女に8分の1づつ遺します」と記載がされていましたが,遺言者が二女に対し宛てた「平成24年文書」では「マンションは二女にやりたいと思っている。自宅は夫がもらってはどうですか」と記載されていました。

 

 

この二つの文書のうち,第一審,控訴審とも「平成14年文書」については遺言として有効とし,「平成24年文書」については無効と判断しています。

その理由としては

・「平成14年文書」については,遺産である不動産は夫と共に築き上げてきた財産であるという認識のもとに夫に事由にさせるという意思を表明していたこと,長女二女の遺留分が侵害される事態も想定して作成されている内容であり,内容して整合的であること。

・他方で「平成24年文書」については,「こんなことが役に立つようでは困るけど」と付記されているなど死後の財産処分について言及したものと解し得ないではないが,このように解すると「平成14年文書」を一部撤回したことになるがかねてから不動産を夫の自由に委ねるという意思を表明していた遺言者が翻意するというのはいささか奇異であると言わざるを得ないこと,マンションのみに言及しており自宅敷地について触れるところがないこと,「二女にやりたいと思っている」という表現ぶりのほか,二女に宛てた私信であるという事情などから,希望又は意図の表明を超えるものではなく,最終的に医師の表示であると断定するには合理的な疑いが残る。

というものです。

 

 

本件は郵便はがきに記載されていたことについて「私信」として作成されたもので遺言として作成されたものではないという評価が下されています。

前記したとおり,遺言が記載される紙自体については何でもよいとされているのではありますが,郵便はがきに限らず,遺言を書くのに不相応な紙を使った場合は,「単なる草案であった」といった反論がされることが多いものです。