判例タイムズ1469号で紹介された事例です(東京地裁平成30年5月25日判決)。
本件は,二人の高齢女性の原告(一人は契約時82歳,一人は92歳)が,一人暮らしをしていたそれぞれの自宅不動産を被告に対し売り渡すという売買契約を締結したという事案ですが,売買価格がそれぞれ,350万円(築30年以上ではあるが,固定資産税評価証明価額では約1211万円,リフォーム後の想定取引価格約2000万円),700万円(固定資産税評価額は土地建物合わせて合計約5016万円,大手不動産業者による査定額は2社とも約1億円超)であり,このような売買価格は暴利行為として公序良俗(民法90条)に反するのではないかが争点の一つとされました。
判決では,原告は二人とも,該当物件に年金収入のみで一人暮らしをしており,売却後の新たな住居も確保していなかったと推認されることや,売買を行う動機が見当たらないこと,通常買主負担とされる登記費用が売主負担とされていたことなどからすると,リフォーム費用を差し引いたとしても前記のような売買価格での取引は,高齢で理解力が低下していた可能性があった原告らに対して十分な説明をしないままなされた不合理な内容の契約であって,暴利行為に該当し公序良俗に反するものとして売買契約は無効であるとされています。
公序良俗違反や暴利行為といった主張は通常の訴訟などでもよくみられるものですが,認められることはなかなか少ないというのが感覚ですが,高齢者との取引については,判断能力の低下に付け込んで不合理な内容の契約を締結させたとしてこれを認める裁判例は時折散見されます。
ただ,本件でも,原告の高齢女性二人について特に認知症であったといった主張や認定判断はされていないようで,この点につき「判断能力が低下していた可能性」と指摘して訴えを認めている点が特徴的な裁判例ということも言えるかなと思いました。
【認知症(要介護3)の高齢者が行った根抵当権設定契約につき意思能力がなかったとして判断された事例】
https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12300548205.html