判例タイムズ1469号で紹介された事例です(東京地裁令和元年8月30日判決)。

 

 

会社法833条により,一定の要件を満たす株主には会社解散の訴えを提起することが認められています。

 

(会社の解散の訴え)
会社法第833条第1項 次に掲げる場合において、やむを得ない事由があるときは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができる。
一 株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。
二 株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするとき。

 

本件は,会社の株主間の紛争が高じて,株主から会社解散の訴えが提起されたものですが,原告となった株主の株式についてその債権者から株式の差押命令及び仮差押命令が発令されたことから,債務者(本件原告)に対して「一切の処分を禁止」するとした民事執行法145条1項に抵触しないかが問題とされました。

 

(差押命令)
民事執行法第145条第1項 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。

 

裁判所は,差押えの効力は,差押えの目的の為に必要な限度でのみ認められるとし,この観点からすると,会社解散の訴えは,訴えが認容された結果生じる権利には差押えの効力が及ぶもで,株式の価値を換価し債権の満足を得るという目的を阻害するものではなく,執行債権者を害するものとはいえないとして(会社解散の結果残余財産の分配請求権に差押えの効力は及ぶということ),本件原告に会社解散の訴えを提起する適格があると認めました。

 

 

その上で,本件では,会社の株式を本件原告と会社の代表者の2人が50パーセントづつ持ち合っているという状況のもと,代表者が会社の財産から退職慰労金などの利益を得ようとしているとしており(仮に総会で報酬決定を委任されていたとすると自由に利益を取得できてしまう),取締役解任の訴えが認められたとしても,その後の手続が続かないことから(株式の保有率が50パーセントづつのため新たな取締役を選任することができない),会社法833条1項1号に該当するとして,会社解散の訴えが認容される結果となっています。

通常は,株式については49パーセントと51パーセントにするなど工夫するものですが,良好な関係にあった時期に取り決められた株式の保有率であったことが災いしたようです。