民法改正により,かねて批判がされていた特定物についての請求権(引渡請求権など)などが当事者双方の責めによらないで履行不能となった場合の危険を債権者が負担するという債権者主義(例えば,引渡し請求権は履行不能で消滅するのに,その対価である代金は支払わなければならない)の規定は削除され,債権者は反対給付の履行を拒むことができることとされました。

また,債務の履行不能を理由とする解除について,従来は債務者の帰責事由が要件とされていましたが,改正法では要求されないこととなりましたので,特定物の引渡しを請求する立場にある債権者は,契約を解除して,代金支払債務を免れることもできるようになっています。

 

 

【民法改正 危険負担・債務不履行解除】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12336237857.html

 

 

このような契約解除や危険負担についての改正法の適用について,附則30条1項,32条において,施行日である令和2年4月1日よりも以前に締結された契約については,なお従前の例によるとされています。

 

 

改正民法附則
(契約の効力に関する経過措置)
第30条1項 施行日前に締結された契約に係る同時履行の抗弁及び危険負担については、なお従前の例による。
改正民法附則
(契約の解除に関する経過措置)
第32条 施行日前に契約が締結された場合におけるその契約の解除については、新法第五百四十一条から第五百四十三条まで、第五百四十五条第三項及び第五百四十八条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

 

現在,新型コロナウィルスによる経済活動の大混乱があり,これが改正民法の施行時期とも重なりました。

施行日より前に締結された契約が,新型コロナの影響で履行がされないという状況に陥っているということは多発しているものと思われます。例えば,施行日前に締結した旅行に関する契約で施行日以降に旅行が実施されるものとか,継続的なサービス(例えば,学習教室)の給付を内容とする契約などが考えられます。

前記したような特定物についての請求権(引き渡し請求権など)が新型コロナウイルスで履行が難しくなるということはあまり考えられず,問題となっているのは,それ以外の履行を内容とする契約であると考えられ,これらの契約については,改正前後を問わずに,履行が不能であると評価された場合の危険は債務者が負担することとなっています(「債務者」というのは,履行が不能となった給付についての債務者ですので,先ほどの旅行の例でいえば旅行会社,継続的なサービス供給契約でいえばサービスの提供者である学習教室)。

債務者が危険を負担するという意味は,債務者が反対給付を受けられないということになります。

改正前後の民法の条文は下記のとおりですが,多少書きぶりが異なっています。

これは,改正前の場合には,債務者の帰責事由がなければ契約解除ができないため,「権利を有しない」として反対給付の権利自体を認めないこととしているのに対して,改正法では,履行不能となれば債務者の帰責事由を問わずに契約解除ができるので,解除しないうちは「履行を拒むことができる」と表現しているということになります。

 

 

(債務者の危険負担等)
改正前民法第536条 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
(債務者の危険負担等)
改正民法第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

 

ありそうなこととしては,施行日より前に,代金は全額支払ってしまっているが,施行日以降に,債務者の責めによらない事由で履行不能の状態となってしまったということですが,この場合,改正前民法が適用されますので(前記附則30条1項,32条),代金を受領しサービスを提供する側である「債務者」が危険を負担しますので,反対給付である代金を「受ける権利を有しない」ことになり,サービスの提供をしていない部分については不当利得として返還請求ができるということになります。

改正法の規定によって支払い済みの代金全額の返還を求めるためには契約の解除が必要ということになります。

 

 

ただ,これらの危険負担に関する定めは任意規定ですので,実際には旅行約款や契約書などの定めが別にあればそれに従うということになります。