民法の改正(平成29年6月2日公布)により改められたものの一つが危険負担です。

 

 

例えば,高額な絵画の売買契約(代金1000万円)が成立し,絵画が買主に引き渡される前に地震や水害などの債務者(絵画の引渡し義務を負っている売主)の責めに依らない事由で絵画が滅失しまった場合,契約に特約がない場合,現行民法534条1項の条項を素直に読む限り,債権者(絵画の引渡し請求を求めることができる買主)がその危険を負担する,つまり,代金1000万円を支払わなければならないということになっています。

 

 

(債権者の危険負担)
現行民法第534条1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

 

この結論が不合理であるとして,債権者(売主)の支配下にはいるまでの危険は債務者(買主)が負担すべきであるといった解釈もありますが,条文上は,あくまでも債権者(買主)が危険を引き受けるということになっていました。

 

 

また,絵画の引渡しという債務の履行が不能となったこと(履行不能)を理由とする契約解除についても,現行民法では,債務者(売主)の帰責性がない場合には解除できないとされており,債権者である買主としては履行不能を理由とする契約解除を行うこともできないというととなっていました。

 

(履行不能による解除権)
現行民法第543条 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

 

 

改正民法では,まず,危険負担について,現行民法534条を削除したうえで,新たに536条を設けて次のように規定しています。

 

 

(債務者の危険負担等)
改正民法第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

 

改正民法では,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務の履行(絵画の引渡し)ができなくなったときは,債権者である買主は反対給付,すなわち,売買代金1000万円の履行を拒むことができるとされ,危険の負担は債務者が負うものとされました。

 

 

また,履行不能については,債務者の帰責性の有無を問うことなく契約解除できるとされましたので(改正民法542条1項1号),債権者である買主は契約解除することで代金支払義務を完全に免れることができます。

 

 

改正民法第542条1項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。