破産手続決定開始前に相続が発生し遺産分割協議が未了である場合に,破産管財人が遺産分割協議に参加することができるかという問題があります(なお,破産手続開始後に相続が発生した場合には,相続財産は破産手続き開始決定時以降に発生したものになるので,破産財団に組み入れられることはありません)。

 

 

この点について,家庭裁判所の遺産分割調停に「当事者」として参加まで認められるかどうかについては家裁の実務として肯定・否定何れの取り扱いもありますが(否定的な立場であったとしても「利害関係人」として参加することについては問題がないものと考えられます),少なくとも,破産裁判所としては遺産分割が相続人の一身専属権に属するものとして破産管財人が全く関与できないと捉えているということはありません。裁判所の破産手続の申立て書式にも「遺産分割未了の財産」を記載することになっており,破産管財人による換価が求められているものといえます。

この点は,遺産分割未了であっても債権者はこれを差し押さえることができることとされていること(相続持分には財産的な価値があり一身専属権といえないこと)や破産法が破産管財人に相続放棄の効力を認める申述をする権限を与えていること(破産法248条2項)などを論拠としています。

そのため,破産手続き開始決定前に破産者に不利益な遺産分割協議がなされていた場合は破産管財人は否認権の行使を行うことが可能であるものと思われます。

 

 

遺留分減殺請求権について,判例は行使上の一身専属権であるとしており(最高裁平成13年11月22日),破産者である相続人が遺留分減殺請求を行使していないのに破産管財人がこれを行使することはできないものと考えられます。

しかし,同判例は「遺留分権利者がこれを第三者に対し譲渡するなど権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情があるとき」には債権者が代位行使することができるととしており,破産者である相続人が既に遺留分減殺請求権を行使し訴訟提起をしていたような場合には,破産財団に属する訴訟てして破産管財人が訴訟を受継することができるものと解されます。

 

 

【訴訟手続き中に破産手続きが開始した場合について】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12153796057.html

 

 

相続人である破産者が遺言無効確認訴訟を提起していた場合について,遺言無効が確認された場合には遺産は分割協議を必要とする状態となりますが,前記のとおり,破産管財人に遺産分割協議について権限を認める立場に立てば,これについても訴訟の受継を認めるべきということになります。