https://mainichi.jp/articles/20200326/k00/00m/040/195000c

 

 

原告は病院で死亡した男性の遺族。看護師のミスで転倒死したとして病院に賠償を求める訴訟を起こした。警察が業務上過失致死事件として捜査し、裁判所の令状に基づいて司法解剖を実施しており、遺族は警察に司法解剖の写真を証拠として提出するよう、裁判所に申し立てた。 

(3月26日毎日新聞から一部引用)

 

下記の裁判所サイトに掲載された決定文によると,本件は,記事記載のような医療過誤訴訟の審理において,警察(北海道)が保有する捜査手続きとして実施された①司法解剖に係る写真と②鑑定書・鑑定嘱託書などの書類について,それぞれ文書提出命令の申立てがなされたというもので①と②は別個の申立てで,報道された①については民訴法220条3号後段の「法律関係文書」にあたるとして開示を認めた原審の判断を是認する一方で,②については,原審がこれらの文書の提出を命じたとしても関係者の名誉やプライバシー,捜査や公判に不当な影響を与えないとしてそもそも「刑事事件関係書類」(民訴法220条4号ホ)にあたらないとして提出を命じたのに対して破棄する判断を示したものです。

 

 

【裁判所サイトより】

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/423/089423_hanrei.pdf

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/422/089422_hanrei.pdf

 

 

文書提出命令に関する民訴法の規定は次のようになっています。

 

民事訴訟法第220条 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

 

司法解剖における写真が開示の対象として認められた①事件については,従来からの判例の判断枠組みとして,文書提出命令の対象外とされている刑事事件関係書類(民訴法220条4号ホ)である一方で,命令の対象とされている「法律関係文書」(民訴法220条3号後段)にも該当する場合には,当該文書の保管者が,必要性の有無や程度,開示されることによる被告人,被疑者,関係者の名誉やプライバシーの侵害,捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害の発生のおそれの有無等の諸般の事情を勘案した上での判断に裁量の逸脱があったかどうかという観点から判断するとされています。

本件では,そもそも,司法解剖における写真が「法律関係文書」に該当するかどうかという点に関して,文書提出命令を申し立てた遺族がその父の死体が礼を失する態様によるなどして不当に傷つけられないことについての法的な利益を有し,その写真は犯罪捜査の資料となるとともに,司法解剖による死体に対する侵襲や態様を明らかにして解剖が適正に行われたことを示す資料にもなるものであり,司法解剖による遺族の前記利益の有無などに係る法律関係を明らかにする面もあるとして,「法律関係文書」に該当すると判断したものです。

 

 

 

これに対して,②については,原審が関係者の名誉やプライバシー,捜査公判に対する不当な影響があるかどうかという趣旨から「刑事事件関係書類」に該当するかどうかについて限定解釈したのに対して,「刑事事件関係書類」かどうかについては個別に検討すべきではなく,む被告事件又被疑事件に関して作成されたレ押収されたりしているものであれば当然に該当するというべきであるとし,本件の鑑定書等についても「刑事事件関係書類」に該当すると判断しています。理由としては,事前に裁判所が当該文書の提示を受けて命令についての判断をするインカメラ手続きが刑事事件関係書類については除外されていること(民訴法220条6項)などから,開示するかどうかを裁判所が個別に判断するのではなく,刑事手続き上の開示制度に規律を委ねる趣旨であるとされています。

その上で,刑事事件手続き書類に該当するとしても,法律関係文書などにあたる場合には文書の保管者による非開示の判断に裁量逸脱がないかどうか問題とする判断枠組みに沿って判断するため(本件では文書提出命令の申立人は2号を主張),破棄したうえで判断を差し戻しています。

 

 

【刑訴法47条の「訴訟に関する書類」を引用文書として文書提出命令を行うことの可否】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12492316541.html