判例時報2431・2432号で紹介された事例です(大阪高裁令和元年6月5日判決)。
本件は,父親が石綿粉塵による労働災害により亡くなり,母親が特別遺族年金給付を受けていたところ,母親が死亡したため,その法定相続人である子が,改めて父親の石綿粉塵の健康被害に基づく国家賠償請求を検討するため,亡くなった母親が年金給付を受ける際に作製された調査結果復命書などの書類の開示を求めたというものです。
行政機関個人情報保護法12条1項では,行政機関が保有する「自己を本人とする個人情報」についての開示請求権が認められていますが,本件で開示を求めた書類に記載された情報は父親が石綿粉塵被害を受けた際の情報(稼働していた期間や場所,病状に関する情報など)が記載されているものであるため,開示請求を行う子にとっての「自己を本人とする個人情報」に該当するのかどうかが争点となりました。
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律
第12条1項 何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。
裁判所は,石綿粉塵の被害を受けた元労働者本人のみならず,その遺族が国に対して訴訟提起して一定の要件のもとで和解に応じて損害賠償ら応じるという救済枠組みが確立しており,元労働者だけではなくその遺族も権利者となることが予定されていることから,本件の情報は,元労働者であった父親から相続した遺族自身の遺産である損害賠償請求権の発生要件が充足されているかどうかを知るための情報であって「事故を本人とする個人情報」に該当するものと判断しました。
死者に関する情報について遺族が開示請求をできるかどうかという点については本件を含めて裁判例が積み重ねられているところです。
【死者が生前に不動産を売却した際の契約書等が請求者自身の個人情報に該当するか】
https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12576464777.html?frm=theme
【死亡した未成年者の個人情報開示請求について判断した事例】
https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12534358880.html?frm=theme
【相続財産についての情報(亡母の印鑑証明書の写し)の開示請求の可否】
https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12494919871.html?frm=theme