汚職というと,政治家や公務員について刑法上定められている罪というのが一般的に想起されますが,弁護士についても汚職行為の禁止(弁護士法26条)と汚職の罪を犯した場合の刑事罰(同法76条)が定められています。

 

 

(汚職行為の禁止)
弁護士法第26条 弁護士は、受任している事件に関し相手方から利益を受け、又はこれを要求し、若しくは約束してはならない。
 
(汚職の罪)
第76条 第二十六条又は第三十条の二十の規定に違反した者は、三年以下の懲役に処する。

 

当然と言えばと当然ですが,弁護士が手掛ける事案は対立する相手方が存在することが多いため,そのような事案で相手方から利益の供与を受けたりすることは禁じられており,違反した場合には3年以下の懲役という刑事罰が科されることとされています。

 

 

事件化したものとしては,借地権の譲渡に関する交渉を依頼されている中において,交渉の相手方から実質的な交渉を委ねられていた者から利益の供与を受けたとして同法違反に問われた事案や顧問先の会社の株式の買占めをしていた相手方との交渉中に9120万円もの利益供与を受けたという事案などが知られています。

 

 

悪知恵を働かせれば,相手方の弁護士に「お中元」などと称して品物を送り付けたりして後からその非違を言い立てるという輩もいるかもしれないので,この辺りは特に注意しておかなければならないことになります。

 

 

なお,代理人弁護士に弁護士法26条違反があった場合に成立した調停の効力について,当然に無効にはならないとする古い判例があります(最高裁昭和31年11月15日判決)。

 

 

ところで,司法書士についても一定の金額までの事案については簡裁の代理権が認められており,対立する相手方からの利益供与ということも想定されるわけですが,司法書士の場合には,対立する相手方との関係を規律する規定はあるものの(司法書士法22条2項3項),相手方からの利益供与について刑事罰までは規定されておらず,懲戒処分によって規律を維持するのに留められています。