家庭の裁判と法23号で紹介された事例です(名古屋高裁平成29年3月17日決定)。

 

 

本件の経緯の概要は次のようなものです。

・婚姻した翌年に子どもが誕生し,その翌年,親権者を母親と定めて父母が離婚した。

・離婚の翌年,父親が面会交流を求めて調停を起こしたが,試行的面会交流で父親に触れられただけで泣き出すなどの拒否的な反応が見られたことから,子どもの福祉に反するとして,子どもが3歳になる頃までは直接的な面会交流は行うべきではないと説示され面会交流の申立ては却下された。

・その翌年,再度の面会交流を求める調停が提起され,申立から足掛け2年程度の間に試行的面会交流が3回行われたものの子どもの父親に対する拒否的な態度は変わらず,申立は却下された。この際,直接的な面会交流が母親や子ども心理的な負担となっており,これに対する父親の理解が不十分であると説示がなされた。

・その翌年,今度は,手紙やプレゼントを贈るという間接交流を求める調停の申立がなされ,試行的に手紙等が送られたが,父親が直接的な面会交流を求めるようになり,調停は「なさず」で終了した。

・子どもが6歳くらいになり,4回目の面会交流の調停が申し立てられ,試行的面会交流が行われたが,子どもの消極的な対応は変わらなかったが,今回は,審判により,年3回,1回あたり付時間から4時間,母親同席での条件での直接交流が認められた(審判の時点で8歳になる時期の子どものストレス耐性や適応力から,直接の面会交流を制限するまでには至らないとされた)。

・しかし,審判で認められた直接交流が一回も実現されなかったことから,父親が母親に対して間接強制を申立て,面接交流1回の不履行につき12万円(そののち,24万円から50万円まで増額変更された)が認められたが,なお,面会交流は実現されなかった。間接強制金約170万円については,母親が親族から借りて支払うなどしたため,母子の生活は困窮している。

・その後,母親が,直接の面会交流を禁じることを求める審判と審判全の保全処分を求めたが,原審(家庭裁判所)は,子ども(9歳)は母親の影響を受けやすい年齢であり,その拒否的な態度は母親の父親に対する嫌悪感等に起因していることが窺われ,母親が子供に対して正しく働きかけることにより子どもの心理的負担を軽減することができるなどを理由として,母親の申立てを却下した。

 

 

その抗告審が本件になりますが,高裁は,母親の申立てを認めて,父親の直接の面会交流を禁止したうえで,手紙やプレゼントの送付という間接的な限度での面会交流を認めるという判断をしました。

理由としては,子どもが当初から父親との面会交流に拒否的な態度であって合計10回以上にわたる試行的面会をしても変化が見られないと言ったことなどを挙げています。

ただ,まだ子どもが生まれて幼かったころからの試行的面会交流で既に拒否的な態度を見せていたということですが,こういうことはわりとあり得ることであるとも考えられ,そうであるからと言って必ずしも面会交流が認められないということはでないのではないかという感覚なのですが(どちらかとうと裁判所は面会交流をなるべく認める方向で判断する傾向が強いように思います),本件では,1回目の面会交流からすでに面会交流の申立てが却下されており,父親の子どもに対する対応がどのようなものであったのかというのは,決定文などからだけではうかがい知れない事情があったような気もします。

高裁の決定文では,父親が間接強制金の増額を50万円から90万円に増額することを求めた際に,裁判所から母親との協議とその理解を得られるような柔軟な対応をするように勧告されたものの,これを「一顧だにしない態度を示した」と論難されていることなどからすると(父親からの間接強制のことを知ってしまった子どもが自らのことを責める言動があり,この点についても指摘がされています),高裁としては,父親の態度にかなり問題があるものとみたといえます。