https://www.jiji.com/jc/article?k=2020010400369&g=soc

 

 

日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)がレバノンに逃走した事件で、弁護人の弘中惇一郎弁護士は4日、取材に応じ、弁護団が辞任を検討していることを明らかにした。来週、被告との接触を図り、被告の意向を踏まえて時期を決める。弘中弁護士は「いずれ辞任しないとしょうがない」などと語った。

(1月4日時事ドットコムから一部引用)

 

民事刑事を問わず弁護士の辞任については特に法律に規定があるわけではなく(民法651条1項によりいつでも解除が可能 但し,やむを得ない事由がないのに不利な時期に解除した場合には損害の賠償が必要),依頼人と弁護士との間で信頼関係を喪失させるような事情があれば,辞任届を裁判所や相手方に送付することで辞任し,その時点で弁護人(民事であれば代理人)としての立場職責は消滅することになります。

 

弁護士倫理を定めた弁護士職務基本規程では,信頼関係喪失を理由とする辞任に当たっては,信頼関係が喪失し,かつ,その回復が困難である旨を説明したうえで辞任等の措置を取らなければならないとされています。

 

 

(信頼関係の喪失)
弁護士職務基本規程第43条 弁護士は受任した事件について依頼者との間に信頼関係が失われ かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

 

もしかしたら行き違いということもあり依頼続行ということもあるので,依頼人に対する説明が求められているわけですが,今回の場合,回復できるような信頼関係の喪失ではないでしょうから,たとえゴーン氏が「辞めないでくれ」と言ったとしても弁護士としては辞任することはできるものと思われます(そもそもレバノンにいるゴーン氏とどうやって連絡を取るのか,直接話をしてくれるのかという問題はありそうですが)。なお,連絡が付かなければ付かないで,もはや説明のしようがないので,その場合でも辞任は可能です。依頼人側の連絡途絶による辞任というのはそれなりにあり,一般的には,状況や辞任の意向を記載した通知を郵送するなどした後に辞任していることが多いです。

 

 

私選弁護人が辞任したとしても,刑事裁判自体は継続している状態ですので,弁護人がいなくなってしまったことになります。

今回ゴーン氏が問われている会社法の特別背任などの罪は必要的弁護事件といって弁護人がいなければ裁判を進めることができない事件のため,職権で弁護人を付さなければならないとされており(刑訴法289条1項・2項),この場合の弁護人は国選弁護人ということになります。

 

 
刑事訴訟法第289条 死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
2 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなつたとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。

 

一般的には,こうした場合,被告人に対して弁護人を自ら選任するかどうかの回答を求めて回答がない場合などに国選弁護人を選任するということになりますが,今回の場合そのようなことをしてみても無意味と思われます。

国選弁護人を選任する場合,裁判所から法テラスを通じて弁護士会に対して推薦依頼を行うことになります。弁護人を選任したところでゴーン氏が日本に戻ってくる又は送還される見通しもないので,このような事案で形式的に弁護人選任の手続をするのかどうかというのはよく分からないですが。

国選弁護の推薦事務が法テラスに移管されてからは(以前は直接弁護士会が担っていました。),国選弁護はやっていないのですが(というよりも国選弁護の名簿登録を抹消してしまいました),東京の場合弁護士会館の一室に決められた時間に希望する弁護士が集まって国選弁護案件の概要が記載された書類を見て受任するかどうかを決めたりしているのですが,私もそうでしたがどちらかというと若いなり立ての弁護士などが多くて,その中に今回の件が混じっていたとしたら,不謹慎ですが笑ってしまいますね。

特殊すぎる件なので,裁判所から直接弁護士会に推薦依頼をかけるというルートもあるのかもしれませんが。ウルトラCでゴーン氏が送還されるということも絶対ないとは言い切れないですし,その場合,弁護士会としても今回の私選弁護人に劣らない人に依頼するのでしょう。