https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51495220Y9A021C1ACYZ00/
暴力団工藤会が関与したとされる市民襲撃4事件で、殺人と組織犯罪処罰法違反などの罪に問われた同会トップ、野村悟被告(72)らの第2回公判が28日、福岡地裁で開かれた。検察側証人として傘下の元組員2人が出廷し、みかじめ料の配分は、組織内のルールで決められていると証言した。
証人尋問は、法廷と別室をモニターでつないで実施。傘下組織の元出納役は、1998年の元漁協組合長射殺で服役中の実行役の妻に「毎月5万円を差し入れていた」と述べた。また、これまでも検察側で証言している別の元組員は、工藤会を名乗る人物から家族に脅迫の電話があったと明かした。
(10月28日日経新聞から一部引用)
暴力団員が被告人となっている事件,とりわけ,今回のように組,それも特に凶悪とされているような組織のトップが被告人となっているような事案においては,裁判所の駐車場は窓にスモークがかかった外車が何台も停まっていたり,開廷前の法廷前の廊下は組員で溢れかえり,異様な雰囲気になります。
法廷内の傍聴席も組員らしき人間で埋め尽くされたりして,この雰囲気の中で,組に不利な証言をしようとする,しかも,元組員となれば大変な重圧であろうことは想像に難くないところです。
法廷内の証言席を遮蔽して証言してもらうという方法もありますが(刑訴法175条の5),そもそも法廷内に入室することなく証言してもらうための方法としてビデオリンク方式による証言というものが規定されています(刑訴法157条の6)。
なお,遮蔽の措置とビデオリンク方式の措置は併せて措ることが可能です。
刑事訴訟法第157条の6 裁判所は、次に掲げる者を証人として尋問する場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所であつて、同一構内(これらの者が在席する場所と同一の構内をいう。次項において同じ。)にあるものにその証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。一 刑法第百七十六条から第百七十九条まで若しくは第百八十一条の罪、同法第二百二十五条若しくは第二百二十六条の二第三項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、同法第二百二十七条第一項(第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇 助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項(わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条第一項若しくは第三項の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六十条第一項の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号に係る同法第六十条第二項の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第四条から第八条までの罪の被害者三 前二号に掲げる者のほか、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者○2 裁判所は、証人を尋問する場合において、次に掲げる場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、同一構内以外にある場所であつて裁判所の規則で定めるものに証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。一 犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が同一構内に出頭するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認めるとき。二 同一構内への出頭に伴う移動に際し、証人の身体若しくは財産に害を加え又は証人を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき。三 同一構内への出頭後の移動に際し尾行その他の方法で証人の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定されることにより、証人若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき。四 証人が遠隔地に居住し、その年齢、職業、健康状態その他の事情により、同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。(3項以下略)
性犯罪の被害者などのほか,犯罪の性質や被告人との関係などの事情により裁判所の判断で採用が決められますが,法廷とその法廷がある裁判所の同一構内の別室とをビデオリンクでつなぐ方式と(1項),裁判所の建物以外の場所に証人にいてもらってつなぐ方式(2項)がありますが,記事を読む限り,今回は1項でのビデオリンク方式による証言であったようです。
なお,記事だけではビデオリンク方式に加えて遮蔽の措置まで取られていたのかについては不明ですが,遮蔽の措置も併せて取られていた場合には,被告人と証人は相互に見えることはなく,また傍聴人と証人との間についても遮蔽の措置が取られた場合には,法廷内では,証人の音声のみが聞こえるという状態となります。なお,遮蔽の措置が取られた場合であっても,弁護人と証人の間を遮蔽することはできないので,弁護人は証人のことを認識することができます。
この点が裁判の公開を定めた憲法に違反するかどうか争われた裁判で,最高裁は合憲との判断を下しています(最高裁平成17年4月14日)。