家庭の裁判と法21号で紹介された事例です(東京高裁平成29年9月22日決定)。

 

 

寄与分は,共同相続人の中で被相続人の財産の維持,増加に特別の寄与をした者があるときは,その寄与した分(寄与分)について遺産の中から優先的に取得できるようにするという制度です(民法904条の2)。

 

 

(寄与分)
民法第904条の2 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

 

昨年の相続法改正により,寄与分の適用範囲を拡大する旨の特別寄与制度が創設され今年の7月1日から施行されています。

 

 

【相続法改正 特別寄与制度の創設】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12403353487.html

 

 

本件では,両上下肢にマヒがあり,洗身,食事摂取,排せつ,着替えに全介助を必要とし,意思疎通についてもほとんどできず,全身寝たきりとなった在宅の被相続人について,デイサービスやデイケア,訪問看護の利用に加えて,それらの介護を担っていた相続人のうちの一人が寄与分を主張したという事案です。

このような類型の寄与分の主張を実務上,療養看護型といっており,最も主張されることが多いとともに,言いっ放しで終わっていることも多く,最終的に寄与分の判断にまで至らないことも多い類型です。

療養看護型の起用分の主張の骨子としては,寄与分の主張をする者が療養看護したことにより,被相続人がその分の療養看護の費用の支払いを免れたことから遺産の維持増加に貢献があったというものになります。

 

 

療養看護型の寄与分の主張が認められるための前提として,一般的に被相続人が要介護度2以上の状態にあったということが目安となるとされ,施設入所していたり入院していたりしていた場合にはその期間については専門介護,看護を受けていることから認められないとされます(実務上,入所・入院中毎日通って食事の補助をしたり会話の相手になっていたとか洗濯をしていたといった主張が多くされるのですが,実務上は寄与分としては認められていません。確かに介護看護として行為を行ったという側面は認められますが,施設病院に費用を支払っている以上,その分の支払いを免れたとは言えないためです)。

 

 

一般的に療養看護型の寄与分の算定においては,介護報酬(一般的に介護保険における介護報酬基準が用いられる)に介護日数を乗じた金額に介護・看護の素人である親族であることを考慮した裁量的割合(一般に0.7とされることが多い)を掛けた額とされます。

 

 

本件でも,被相続人の要介護度4と5に応じた訪問介護の報酬にそれぞれの期間を乗じて裁量的割合である0.7を掛けた金額を寄与分とすることを基本としつつ,高裁では,痰の吸引という医療行為に関してはさらに介護報酬を加算した上で寄与分を算定することとし,結論としては合計約760万円(原審家裁は約655万円)について寄与分として認めました。