判例タイムズ1461号で紹介された最高裁の決定で,下記の報道などがされた事案になります。

 

 

【子供が引き渡し拒否、父親への制裁金認めず 最高裁】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12459545565.html?frm=theme

 

 

本件は家庭裁判所の審判により監護者と指定され,長男,次男,長女の引渡しを命じる審判に基づいて母親が父親に対して子の引渡しを求めたものですが,先立つ直接強制(執行官が父親のもとに赴いて直接子の引渡しを実現する方法)において,次男と長女は引き渡されたものの,9歳3か月の長男は引き渡されることを拒否して呼吸困難に陥りそうになるなどしたため執行不能とされ,その後,父親とその両親を拘束者として母親が求めた人身保護請求においても,長男(その当時で9歳7か月)は母親に引き渡されることを明確に拒否し,その意思表示は父親等の影響を受けたものではなく長男の自由意思に基づいてなされたものであるとして請求が棄却されたという経緯がありました。

 

 

そのうえで母親が父親に対して間接強制(直接の引渡しを実現するのではなく,引き渡されない場合には1日当たりいくら支払わなければならないとして債務者,この場合は父親に心理的圧迫を加えて引渡しを実現させる方法)を申し立て,原々審(家裁),原審(高裁)とも,子の引渡しを命じる審判がされた場合に子が引渡しを拒絶していることは直ちには当該審判を債務名義とする間接強制決定を妨げる理由になるものではないという従来からの最高裁の立場に沿って母親の間接強制の申立てを認めましたが,本件において,最高裁は上記のような経緯からすると,父親に心理的圧迫を加えて子の引渡しを実現することは過酷執行となり許されないとしたものです。

 

 

子が引渡しを拒絶していたとしても間接強制はすることができるという原則的立場を変更したわけではないので,あくまでもその時点における例外的な具体的な事例判断といえ,本来的には,執行の手続きの中で解決するというよりは,執行することができる元となっている債務名義である審判の取り消しなどを求めて子の引渡しを認めた元の審判が現時点での子の福祉の観点からみて正しいのかという根本から手続きをやり直していく必要があるものと思われます。