金融・商事判例1570号で紹介された事例です(名古屋高裁平成30年4月18日判決)。
本件の経緯の概要
・もともと同族会社で代表取締役であった父親が長男に経営を譲り相談役に退いたものの,長男一人では不十分と考えたため,其れまで懇意にしていた公認会計士も長男とともに代表取締役としたが,公認会計士である代表者は会社とコンサルタント契約を結ぶとともに,会社から離れた東京に事務所があってほとんど出社することはなく,出張してくるたびに高額の出張費を請求するなどして会社の従業員から不信感を持たれるなどした。また,当該公認会計士の紹介により顧問弁護士の一人に就任した弁護士が公認会計士とともに被告とされている。なお,長男の取締役就任後,赤字であった会社の業績は回復した。
・父親の判断力に疑問を感じた妻(会社の監査役)や長男(会社代表者)や二男は父親の成年後見制度の利用も検討したところ,これが父親に知られて,これをきっかけに父親対長男側の対立が開始された。
・長男側は長男らが保有する株式に加えて会社の約2割の株式を保有するA社の協力も得て(これで株式の過半数に達する),名古屋の別の弁護士を代理人として,公認会計士との契約を解約することや父親の立ち回り先に宛ててこれまで父親が使ってきた交際費は今後会社として認めないといった通知を出した。
・これに対して,父親側は,長男側についたA社の賛成が得られないため,A社に対しては株主総会の発送や委任状の取得もしないまま,他の株主に対しては総会開催通知を発送し(但し,通知から総会日まで1週間を必要とする法定の期間を満たさない6日間しかなかった 会社法299条1項),さらに会社からは離れた大阪で定時総会として総会を開催し,公認会計士である代表者が議長を務め,顧問弁護士が出席したうえで,A社については父親に議決権行使を委ねているものとして取り扱い(A社については偽造された委任状が提出されている),長男や妻の取締役や監査役について再任せずに別の者を選任するという決議を行なった。
・その後,会社や自宅にガードマンを配置して反対する者の立ち入りを禁じるなどの措置をとった。
・父親と長男の間では総会不存在決議確認の訴えや父親などについて職務執行停止の仮処分などの法的手続きがされるなど紛争が起こったが,これにより客離れか起こるなどしたため,第三者の仲介などもあり,会社事業の大部分を長男側に譲渡するなどの和解がなされた。
・その後,父親は自宅において死亡した。本件会社の代表者には三男が就任した。
本件は,株主であるA社に対して招集通知を欠き偽造された委任状により議決がされるなどしており,そのような違法の総会の招集や決議の手続に関与したことが不法行為であるとして,長男らが,公認会計士である当時の会社代表者と顧問弁護士を被告として訴えて,慰謝料などを請求したというものです(一審は請求棄却)。
高裁の判決では,前提として,総会開催までの法定の期間を満たさず,会社株式の約2割を保有するA社に対する招集通知を欠き,委任状も入手されていないままになされた本件総会決議はそもそも不存在であるとされました。
そして,父親は長男から経営権を取り戻したいと考えていたもののその具体的な手続きについてまでは知識はなく公認会計士である評者と法律専門家である顧問弁護士に任せていたもので,公認会計士である代表者と顧問弁護士は,長男側により契約が打ち切られることでそれまで労せずして得ていた顧問料収入等を失ってしまうことを危惧し,父親が経営者に復帰することを望み,そのためには違法な手手続きにより実現するほかなかったことから,あえてこのような行為に及んだもので,不法行為が成立するとしました。
そして,一般的な相場から見ると慰謝料としては高額であると思われる金額(長男につき600万円,監査役であった母親につき300万円)を認容しています。
認定のとおりであるとすれば当該弁護士には懲戒処分がされて然るべきであると考えられます。
また,高齢となった経営者からの事業承継の問題を考えるについてもいろいろと学ぶべきことが多い事例ではないかと思われます。