夫婦間に生まれた子は夫の子として推定され子どもとの間に父子関係が発生し(民法772条1項),父親は子に対する扶養の義務を負います。

 

 

父親は,嫡出否認という手段によっても父子関係を否定することができますが,一定の要件のもと,親子関係不存在確認という手段によっても父子関係を否定することができ,この場合,特に提訴期限はないので,子どもが生まれてかかなり時間が経過した後であっても,親子関係(父子関係)が否定されるということが起こり得ます。

 

 

親子(父子)関係の不存在確認が認められた場合,その効力は確認された時点から将来に向かってのみ効力を生じるのか,子が生まれたときに遡って効果が生じるのかについて,法律に規定するところではありませんが,無効というのは初めから効果が生じていないことを意味するものであることや嫡出否認の効果が出生の時に遡及するとされていることからすると(民法784条),出生の時に遡って父子関係が否定されると解釈する方が素直ということができそうです。

 

 

その場合,自分の子どもではないのに養育費を負担していたということになり,この過去の養育費について,法律上の根拠がなく支払わされたものとして求償(請求)することができるのかという問題があります。

 

 

この点について一つの裁判例(東京高裁平成21年12月21日判決)は,不当利得の法理は衡平の理念に根差すものであり,一方が利得しその結果他方が損失を被っている状態を放置しておくことが法秩序が是認し得ない違法状態と見てこれを是正しようとするものであるとしたうえで,少なくとも実子ではないことが発覚するまでは父と息子として良好な関係を保っていたことや,子どもを一人の人間として育て上げる過程において,経済的費用の負担や親としての悩みや苦労などのいわば対価として,子が誕生してから成長していく過程で子を愛しみ監護養育するものとして金銭には代えがたい無上の喜びや感動を子から与えられたことは否定ができないとし,法秩序からみて是認できないほどの違法な不均衡状態があるとはいえないとして,求償(請求)を否定しています。