特殊詐欺の被害者が暴力団組長に対して損害賠償請求をしたという事案において,ここ数日の間に水戸地裁と東京地裁とで立て続けに,結論を異にする判決が出されています。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20190524/ddm/041/040/091000c

指定暴力団住吉会系組員らによる特殊詐欺の被害者3人が、暴力団対策法の代表者責任(使用者責任)規定に基づき、住吉会の関功会長ら2人に計約700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、水戸地裁であった。前田英子裁判長は会長らの「使用者責任」を認め、被害者3人のうち2人に対する605万円の賠償を命じた。1人は詐欺に気付いて現金を渡さなかったとして請求を棄却した。 

(毎日新聞5月24日記事から一部引用)

 

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO45217790U9A520C1CR8000/

暴力団住吉会系組員らによる特殊詐欺事件の被害者が住吉会会長らに計1950万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(伊藤繁裁判長)は24日、詐欺グループの組員に1100万円の支払いを命じた。会長らの使用者責任は「住吉会や構成団体の威力を利用して行われたとは認められない」などとして、暴力団対策法と民法の両面で認めなかった。

(5月25日日経新聞記事から一部引用)

 

暴力団員の行為によって損害が発生した場合に当該暴力団の組長に対する責任追及の法律的根拠としては,従来,民法715条の使用者責任という法律構成が取られていましたが,民法上の使用者責任を追及する場合には,組織の実体や意思決定,意思伝達の仕組み等を具体的に主張して,「使用関係」を立証しなければならないとされていたため,暴力団組織という性質上そのような立証が困難であるという指摘がされていました。

 

 

 

そこで,平成20年に,いわゆる暴力団対策法が改正され,威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任についての規定が新設され,暴力団員が「暴力団の威力を利用して」生計の維持等に必要な資金等の獲得を行う行為により生じた損害について,暴力団組長の損害賠償責任が認められることになりました(例外としての免責規定はある)。

 

 

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
(威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任)
第31条の2 指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 当該代表者等が当該代表者等以外の当該指定暴力団の指定暴力団員が行う威力利用資金獲得行為により直接又は間接にその生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得ることがないとき。
二 当該威力利用資金獲得行為が、当該指定暴力団の指定暴力団員以外の者が専ら自己の利益を図る目的で当該指定暴力団員に対し強要したことによって行われたものであり、かつ、当該威力利用資金獲得行為が行われたことにつき当該代表者等に過失がないとき。

 

 

ただ,「威力利用」という言葉からも分かる通り,みかじめ料の要求などの暴力団員であることを誇示して行われた行為については典型例して分かりやすいと言えますが,今回のような特殊詐欺の場合,被害者に対して暴力団員であることを示して(威力を利用して)行われるものではないことから,条文上の解釈としては,東京地裁判決の方に分がありそう思われます。

 

 

もちろん,従来のとおり,民法上の使用者責任についても請求が可能ですが,この点については,記事によれば,グループの構成員と暴力団との関係が分からないといったことなどから,使用関係などが認められないとして責任を否定しているようです。

 

 

伊藤裁判長は判決理由で「受け子をどのように集めて管理していたかは明らかになっていない」と指摘した。詐欺グループの中心とされる人物と住吉会や構成団体との関係も明らかでなく、詐取金が住吉会などの収益になったことを示す証拠もないとして、会長らの民法上の使用者責任も否定した。

(前記日経新聞記事から一部引用)