https://mainichi.jp/articles/20190520/k00/00m/040/216000c

 

 

 

高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)について、導入から1カ月で適用を受けた労働者は全国で1人だけだったことが20日、厚生労働省への取材で判明した。多様で柔軟な働き方を確保するのが狙いだが、長時間労働を助長するとの批判も根強く、企業側の慎重姿勢がうかがえる。 

(5月20日毎日新聞から一部引用)

 

高度プロフェッショナル制度は,昨年の国会で議論の末,平成31年4月1日から施行されている新たな制度です。

 

 

高プロ制度の導入に当たっては,まず,「労使委員会」の設置が必要となります。労使委員会は,高プロ制度を設けようとする事業場において,賃金や労働時間その他の労働条件に関する事項を調査審議し,事業主に対し意見を述べる委員会のことをいい,使用者と労働者を代表する者が委員(構成員)となっているものをいいます。人数については,労働者代表委員が半数を占めている必要がありますが,労使各1名の計2名から成るものは労使委員会としては認められないとされています。

 

 

労働基準法第41条の2柱書 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

 

 

次に,この労使委員会において,委員の5分の4以上の決議により,委員会で決議すべき項目(10項目)について決議することが必要になります。決議すべき項目は労基法41条の2第1項のほか厚労省令において規定されています。

 

一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)
二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。
五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。
ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。
六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。
七 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続
八 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
九 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 

 

労使委員会で決議した事項については労基署に届け出なければなりません(労基法41条の2第2項)。

 

 

そして,高プロの適用対象となる労働者について,その書面による同意を得る必要があります。

同意を得る必要がある事項は,①同意した場合には労基法第4章の規定(労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定)が適用されないことになる旨②同意の対象となる期間③同意の対象となる期間に支払われると見込まれる賃金の額です。

 

 

高プロの適用対象となったとしても,使用者は,

①対象労働者の健康管理時間の把握

②休日の付与・・・1年間を通じ104日以上かつ4週間を通じ4日以上の給仕を与える必要がある

③健康福祉の確保措置・・・勤務間インターバル制度と1か月あたりの深夜業の回数制限・健康管理時間を1か月又は3か月についてそれぞれ省令で定める時間を超えない範囲内とする・1年に1回以上の継続した2週間の休日を与える・症例に定める要件に該当する労働者に健康診断を実施することのいずれかの措置を講じること(指針案)

④健康管理時間の状況に応じた健康確保措置

を取らなければなりません。

 

 

「働かせ放題制度」などとして野党や世論からの反対も根強かったこともあり,制度としては適用職種の限定や手続き面でも多くの規制が入り,使用者側からすればかなり使いにくいものとなっていて,今回適用対象となったのでたった一人であったというのもある程度は想定されていたものと思われます。

 

 

もっもと,この制度がこのまま使い勝手が悪いまま終わるとも思われず,今後,省令の改正などにより適用対象が広げられていくということも想定されているところであり,今後の方向性については引き続き見ていく必要があるものと思われます。