判例タイムズ1453号で紹介された事例です(東京地裁平成29年11月29日判決)。
本件の契約としては,かねて,Aから介護保険の申請などの相談を受けていたりした行政書士が,Aの親が亡くなり相続が発生したことから(相続人はAを含む子3名),Aともう一人の相続人Bの依頼を受けて,相続人調査,相続財産の調査,財産目録の作成,遺産分割手続を業務内容とし,着手金としてABについてそれぞれ36万円,また,相続完了時に相続財産価格の1パーセント相当額を報酬を受け取るという契約を締結したというものです。
相続人の一人であるCはAと不仲であると聞いていたことから,さすがに行政書士もまずいと思ったらしく,「争いがあるのであれば受託できない」と回答していましたが,AからCの意向を聞いてほしいと言われてCと会ったところ,Cから「円満に進められるなら依頼したい」と述べられたため,法定相続分とおりに分割するのであれば争いもないだろうと考えて,前記の契約を締結して業務を進めたようです。
しかし,結局,その後,相続人間で遺産の範囲や評価,特別受益の存否などについて争いとなり,家裁での遺産分割調停を経て遺産分割が行われたのですが,行政書士側が,遺産分割協議は実質的に終えていたものであるとして報酬(ABに対して各101万円余)を求めて提訴し,一方で,ABは行政書士の行為は非弁行為(弁護士法72条)であり無効であるとして支払った各36万円の返還を求めて反訴したというのが本件です。
行政書士の考え方としては,当初争いもなく法定相続分とおりで分割するだけなのであれば問題ないと考えたということなのだと思いますが,この点つにいて,裁判所は,権利関係に現に争いがある場合はもとより,権利義務に関する紛争が生じることがほぼ不可避であるような基礎的な事情が存在するような場合についても非弁行為に当たるとしたうえで,本件では,契約時また業務遂行時において,遺産の範囲や評価,特別受益の存否等について法的紛争が生じることがほぼ不可避であったとし,本件行政書士の行為は非弁行為であって,受け取った各36万円(合計72万円)については公序良俗に反する給付であるとして行政書士に対して返還を命じました。業務自体はそれなりに遂行していたということもあって,ABが主張した不法行為や詐欺行為という主張については退けられています。
・・・率直な感想として,報酬を求めて提訴などしなければ,反訴もなかったのではないかと思われ,そうすれば72万円も返さなくて済んだかもしれないのに・・という気もしました(もちろん非弁行為なので受け取っていること自体がだめなんですけど)。