水道事業への民間参入を可能にする水道法改正案が政治問題となっているようですが,現行の水道法第6条には一応,例外的に市町村以外の者による水道事業の経営を可能とする規定はあるものの,この例外をさらに緩和して事実上参入が認められていない民間事業者による水道事業への参入を促そうということのようです。

 

 

 

 (事業の認可及び経営主体)

水道法第6条 水道事業を経営しようとする者は、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。

2 水道事業は、原則として市町村が経営するものとし、市町村以外の者は、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することができるものとする。

 

 

ところで,水道には,上水道のほかに,下水道があり,こちらについては,別途下水道法という法律がありますが,こちらについては民間参入ということは議論されていないようです。

下水道法の規定上も,あくまでも市町村が運営主体とされており,水道法のような例外規定はありません。

これは,下水道が公衆衛生という観点から設けられる設備であることに鑑み,上水道よりもさらに公益性が高いものと考えられていることによるものと思われます。

 

(管理)

下水道法第3条 公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理は、市町村が行うものとする。

2 前項の規定にかかわらず、都道府県は、二以上の市町村が受益し、かつ、関係市町村のみでは設置することが困難であると認められる場合においては、関係市町村と協議して、当該公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理を行うことができる。この場合において、関係市町村が協議に応じようとするときは、あらかじめその議会の議決を経なければならない。

 

このような上水道と下水道の位置付けの違いは,破産した場合の料金の優先順位や免責を得たとしても支払わなければならいかという非免責債権性についても相違が表れています。

 

 

破産した場合に,支払いを得られて優先権のうち最も優先されているものを財団債権といいますが(破産法148条1項),下水道料金は「租税等の請求権」に当たるとされています。

 

 

(財団債権となる請求権)
破産法第148条1項 次に掲げる請求権は、財団債権とする。
三 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの

 

これは,地方自治法231条の3第3項で,「法律で定める使用料」は国税又は地方税に次ぐものとされており,地方自治法付則6条の3号で下水道料金が挙げられているからです。

 

 

(督促、滞納処分等)

地方自治法第231条の3第3項 普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけるこれらの徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。

 

地方自治法付則第6条 他の法律で定めるもののほか、第二百三十一条の三第三項に規定する法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入は、次に掲げる普通地方公共団体の歳入とする。
一 港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)の規定により徴収すべき入港料その他の料金、占用料、土砂採取料、過怠金その他の金銭
二 土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)の規定により土地改良事業の施行に伴い徴収すべき清算金、仮清算金その他の金銭
三 下水道法(昭和三十三年法律第七十九号)第十八条から第二十条まで(第二十五条の十八において第十八条及び第十八条の二を準用する場合を含む。)の規定により徴収すべき損傷負担金、汚濁原因者負担金、工事負担金及び使用料
四 漁港漁場整備法(昭和二十五年法律第百三十七号)第三十五条、第三十九条の二第十項又は第三十九条の五の規定により徴収すべき漁港の利用の対価、負担金、土砂採取料、占用料及び過怠金

 

このため,納期限が到来していない又は納期限から1年以内の下水料金については財団債権ということで支払いを受けるに際しての最上位の優先権が与えられているということになります。

 

 

また,免責を得たとしても下水道料金については,租税等の請求権となるので,支払いを免れることはできない(非免責債権)ということになつています。

 

(免責許可の決定の効力等)
破産法第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)

 

 

これに対して,上水道の料金については,上記のような規定はありません。

但し,一定期間の継続的給付ということになるので,破産の申立日を含む料金計算期間の料金については,財団債権とされているので(破産法55条2項),これに基づいて財産債権となりますが,水道料金を租税に準じて特別に保護したということではなく,財団債権となるのは下水道料金に比べてさらに短い期間のものに限られますし,免責もされるということになります。

 

 

(継続的給付を目的とする双務契約)
破産法第55条2項 前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。

 

 

民間参入の是非は別として,このように上水道と下水道では法律上の位置付けが異なっているということになります。現場の弁護士として思うのは,水道料金を滞納した破産者が免責を得た場合に,再契約をしようとしても,民間事業者から契約を拒否されたりすることがいなのかといったことは気になります(もちろん,そういったことはだめなのでしょうが,再契約はできるとしても,「システム上停められない」とか言って延々と請求書が送られてくるといった行為についても運営権者である民間事業者の運営に自治体が口を挟めるようにしておかないといけないと思います。現在でも電話会社などでは請求書の延々送り付けといった対応がされることがあります)。