先日7月6日の相続分野の法改正により,自筆証書遺言の保管制度が新設されましたが,制度の根拠法は民法ではなく,「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)という新設された法律によることになります。

 

 

遺言書保管法第4条 遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。
前項の遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならない。
(以下略)

遺言者が第一項の申請をするときは、遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない。

 

 

自筆証書遺言について,「遺言書保管所」の「遺言保管官」が保管するという制度で言葉の響きは重々しいですが,要するに,(遺言者の住所等を管轄する)法務局が預かってくれるという制度です。

預けるかどうかは遺言者の任意ですので,これまで通り,自宅などで保管しておくことも可能です。遺言書保管制度を利用した場合は,相続発生後に家庭裁判所での検認をする必要はなくなりますが,利用していない自筆証書遺言については検認が必要です。この点が,本制度のメリットの一つとされています。

遺言書保管官は,預かる遺言書が自筆証書遺言の形式的な要件(署名押印など)を備えているかについては審査することになっており,この点も本制度のメリットの一つとなります。記載内容が分からないと審査ができないので,預かる遺言は封がされていないものでなければなりません(法4条2項)。

遺言書を法務局に預けるためには,遺言者自らが法務局に出向かなければならないとされており(法4条6項),足が不自由な人などには事実上利用できないのではないかということも言われています(法務局の職員がわざわざ出張してくれるとも思えないので,この点については,今後,代理人により手続きができるのかといった運用がされるのかどうかも問題となりますが,遺言者本人が確実に遺言書を預けたという事実が担保されることがこの制度の利点の一つであるので,これをどこまで緩和してしまうのかについては難しいところです。この点については自筆証書遺言ではなく出張による公正証書遺言の作成によって対応すべきではないかといわれています。)。

 

 

相続発生後は,相続人らの利害関係人は保管されている遺言書について書面の交付を求めることができます。

 

 

 

本制度によっても,実務上ありがちな遺言者の遺言能力の有無といった遺言書の実質的な有効要件についての争い,無くなるわけではありませんが,少なくとも,遺言者本人が自らの遺言書であるとして法務局に遺言書を持参した日時だけはきちんと担保されるので,この点も本制度のメリットの一つといえそうです。

なお,遺言者自らが書いたものかどうかということについて,法務局では本人に確認するわけですが法務局の面前で遺言書を書くわけではないので,本人がそう言っているだけであって事実は違うかもしれませんから,必ず本人が書いたものであるかどうかという争いについては残るものと思われます。