刑事事件の弁護人は,検察官から開示された記録を閲覧し,謄写することができます。

 

刑訴法第40条 弁護人は、公訴の提起後は、裁判所において、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、且つ謄写することができる。但し、証拠物を謄写するについては、裁判長の許可を受けなければならない。

 

 

謄写について,多くの検察庁では,閲覧室に枚数に応じて料金を支払う方式のコピー機が置かれていて,弁護人自ら記録のコピーを取ることができますが,記録が綴られている紐を取ってソートすることはできないので,1枚1枚コピーするしかなく,分量が多いと大変な手間です。

デジカメで撮影する方式も認められているものの,これも後で印刷するのは結構面倒くさいものです。

ですので,私は,ほとんどの場合,司法協会にコピーは丸投げしています。民主党政権の時に司法協会のコピーの料金が高すぎるのではないということがやり玉に挙げられて料金が下がった記憶があります。

 

 

この謄写した記録については,基本的には,写しを取って被告人に渡して,打ち合わせなどに利用しています。

ただ,被害者やその関係者の住所や電話番号,その他のプライバシーに関することが記載されていたりする場合には,その部分をマスキングしたりするなどして被告人が直接見られないように工夫しています。特に,性犯罪であったり,裁判所から被害者の氏名等について秘匿することが決定されたりした事案などでは必須です。

 

 

しかし,被告人側から,謄写された記録は自分のものだからそのまま渡すように求められたりする場合,どのように対応すべきかというのは問題となります。

弁護人の立場からすると,そのまま記録を渡すことを求める被告人の要求を拒んだ場合,特に否認事件の場合には,被告人側から「一体どっちの味方なのか」と責められることになり関係が悪化するリスクがあります。

 

 

この点が真正面から問題となった事案として大阪地裁平成17年10月14日判決があります(判例時報1930号122頁)。

この件は強制わいせつ事案の私選弁護人のケースですが,弁護人が謄写した記録の一部しか交付しなかったとして,有罪判決の確定後,弁護人が記録の交付などを求めて訴えられたというケースです。

裁判所は,刑訴法上,被告人には記録の閲覧までは認められるものの謄写までは認められていないこと(刑訴法49条)などから,弁護人が固有の権利として謄写した記録は弁護人の所有物であり,所有権に基づく記録の交付請求は認められないとしました。

 

 

刑訴法第49条 被告人に弁護人がないときは、公判調書は、裁判所の規則の定めるところにより、被告人も、これを閲覧することができる。被告人は、読むことができないとき、又は目の見えないときは、公判調書の朗読を求めることができる。

 

 

とはいえ,私選弁護の場合,記録費用を負担支出しているのは依頼人である被告人側です。

そこで,契約関係に基づいて記録の交付が義務として認められるのかについて,本件ではそのような合意(契約)がされたと認められないとされ,また,弁護人は謄写した記録について自らの識見と判断に基づいて利用することができ,当然に被告人に対して交付しなければならない義務はないとされました。国選弁護の場合にも同様のことが問題となりますが,国選の場合,私選と異なって弁護人と被告人の間に契約関係はないのですが,この判決の理によれば,国選の場合も,そのような義務はないうことになります。

ただ,私選の場合,本件では被告人との間で記録を全部交付するというような義務を定めた契約はなかったということで認められ,また,たいていの場合そのような認定がされることが多いとは思いますが,契約書には弁護人が謄写した記録について必ずしも全部を被告人に対して交付するまでは義務はないということを明記しておいたほうがよいのだろうと思われます。