https://www.asahi.com/articles/ASL5L67BQL5LOIPE02X.html
名古屋城木造新天守にエレベーターを設置しないという名古屋市の方針に反対する障害者らが21日、市役所前で抗議集会を開いた。視覚や聴覚に障害がある人を含む約150人が参加し、代表者が抗議文を河村たかし市長に提出した。
河村氏はこの日の記者会見で、クレーン車を使った新技術を応用して障害者を新天守低層階まで運び上げる案を示した。「なるべく上まで上がれる挑戦をする」と、障害者へ説明を続ける考えを示した。
(5月22日朝日新聞デジタルから一部引用)
名古屋城には何度か訪れたことがあり(名古屋城は裁判所のすぐ近くにあるので時間が空いた際などに立ち寄るには便利なのです),お城が好きなこともあって,個人的には,焼失前の元のままで復元してもらいたいという気持ちです。
(名古屋城)
https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-11152999591.html
もっとも,市が公金も投入して建てるという建築物について,最初から身体障害者が上り下りできないような構造にしてよいのかという問題は当然かと思います。
結局,対立する利害を調整して解決する指針としては法によるべきであり,このようなケースで法律がどのように規定しているのかということが問題となります。
建築物を建てる際の基本的な法律としては建築基準法がありますが,エレベーター(昇降機)については高さ31メートルを超える建築物について設置義務があるとされ,名古屋城の天守閣は建物としての高さは約36メートル程度とのことなので設置義務がありそうですが,政令において,31メートルを超える部分の床面積が500平方メートル以下である建築物については除外されていることなどから,建築基準法上のエレベーターの設置義務はなさそうです(建築基準法施行令129条の13の2)。
(昇降機)建築基準法第34条2項2 高さ三十一メートルをこえる建築物(政令で定めるものを除く。)には、非常用の昇降機を設けなければならない。
なお,建築基準法は障碍者の権利保障を目的とした法律ではなく,建物の安全基準を定めて人命,財産等の保護を図ることを目的としたものですので,上記のエレベータの設置義務についても,障害者の権利保障というよりは非常時の救助活動を目的としたものということができます。
障害者の権利保障,この場合,移動の自由,バリアフリーの確保を目的とした法律としては,平成18年に成立したいわゆるバリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)があります。バリアフリー法では,建築物の構造及び設備を改善するための措置を取ることにより,高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図ることが法律の目的とされており(バリアフリー法1条),地方公共団体に対して国の施策に準じて移動促進のための措置を取るべきことが定められています(5条)。
もっとも,バリアフリー法ではエレベータの大きさ(車いすが出入りできるようになど)などの基準を定めていますが,本件のような建築物にエレベータを設置すること自体の義務についてまでは定められていないようです。
他の法律として,いわゆる平成28年4月1日から施行されている障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)があり,この法律には建築物についてのエレベータ設置そのものが規定されているわけではありませんが,この法律では,国や地方公共団体に対して障害を理由とする不当な差別的取り扱いを禁じ,過重な負担を伴わない限り,社会的障壁の除去の実施について合理的な配慮をしなければならないと規定し,これは民間事業者が努力義務であるのとは異なり,法的な義務であるとされています。
障害者差別解消法
第7条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
本件では,障害者を含めた不特定多数の国民,市民が出入りすることが想定される建築物を建てるのにあたり,事実上,身体障害者が利用できないような構造にすることが許されるのかということが問題となります。
これが市役所や公民館を立てるという場合であれば当然許されないであろうといえ,焼失した天守閣をそのまま立て直すという文化的な目的があれば許されるのか,エレベータを設置することが過重な負担となるのか,他の代替手段があるのかといったことが問題となりそうですが,目的によって施策がすべて正当化されてしまうということにはならないであろうし,数百億円という事業規模においてエレベータを設置することが過重な負担ともいえないでしょうから,名古屋市としてはなかなか苦しいのではないかと思われるところです。
代替手段としてクレーンで障害者を吊り上げるなどというのはちょっと論外のような気がしますし,仮にそのような方法を取ったとしても天守閣の最上階にそのための設備を設置するのであれば元の天守閣のままということにはならないのではないかという気もします。
それにしもてこの点について天守閣再建の議論をする際に全く検討した形跡もなさそうだというのが少し驚きです。
障害者の移動の権利(バリアフリー)に関する裁判例として,視覚障害者が裁判所での手続きに出席したところ,階段で足を滑らせて転落したことから,階段の設置管理に瑕疵があるとして国家賠償請求した事案につき,事故前の当該地域の条例や法律に点状ブロック等の施設が定められており,法制や社会の変化、国民の意識ないし期待水準の高まりや、これに応じた身体障害者のための安全設備の整備普及の実情なども踏まえると,裁判所のような公共性の高い建物には点状ブロック等の設置が法的にも要請されていたとして,請求を認容した事例があります(大阪高裁平成17年6月14日判決)。
この事例はすでに存在していた裁判所庁舎(昭和20年代築)であり視覚障碍者のための具体的な施策(点状ブロック等の設置)が条例によっても規定されていたという点などで違いはあるものの,本件で名古屋市や県の条例でどのように規定されているのかについてまでは調べられていませんが,公共性の高い建築物をこれから建てるという局面においても障害者のバリアフリーをどのように考えるべきかという点では参考になるのではないかと思われます。