家庭の裁判と法NO13で紹介された事例です(仙台高裁平成29年6月29日決定)。

 

 

本件は,被相続人の相続人として前夫との間の子A,後夫との間の子B,養子Cの3名がいた事案で,被相続人が遺産をすべてAI相続させるとともに,養子Cについて相続人から排除する,遺言執行者をAとする旨の内容の公正証書遺言を遺して死亡したところ,CがAに対し遺留分減殺請求を提起し,双方が遺言の効力を承認することを確認したうえで,AがBに対し価額弁償金を支払い,双方ともに債権債務がないことを確認するという和解を行なった後に,AがCに対し,遺言に基づいて相続人排除の申立てをしたというものです。

 

 

 

率直な実感としては,AはすでにCとの間の紛争を和解によって解決したのであり,その後になって,Cの相続人排除を求めるというのは矛盾しているような気もします。

実際に原審(仙台家裁)は,Aの申立ては信義に反するとして申立てを却下しました。

 

 

しかし,抗告を受けた高裁では,AがCとの間で行った和解はあくまでも個人間の紛争に関するものであり,Cに対する相続人排除の審判の申立ては,自己の私的な立場や利害を離れて職務を遂行すべき「遺言執行者」という立場から行われるべきもので,本件ではBという別の相続人もいることから(Bにとっては,Cが相続人から排除されるとその分遺留分が増えるという関係になる),AがCに対する相続人排除の審判の申立てをすることについては申立の利益があるというべきであるとして,判断を家裁に差し戻しました。

 

 

遺言執行者の立場については民法1012条に規定がありますが,その意味をめぐっては様々な学説があり,民法の解釈の中でも最も混沌としている部分であるなどと言われているところでもあります。

 

 

(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条1項 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

 

 

ただどの立場に立っても公正中立に職務を執行しなければならないという立場であることは争いないわけで,弁護士が遺言執行者になることも多くありますが紛争案件などでは進退窮するということもあり(近時,弁護士が遺言執行者となったことでその職務執行を巡って利害関係のある相続人などから懲戒申立てがされて実際に懲戒されるということも増えていると思います),そもそも遺言執行者に就任するかどうかという段階で熟考しなければならないこともあります(遺言執行者に指定されていたとしても辞退することも可能であるため)。