相続の放棄とは,相続人が家庭裁判所に対し相続放棄する旨の申述を行って受理されることで,その効果としては,初めから初めから相続人とはならなかったことになります(民法938条,939条)。

プラスの遺産はもちろん,マイナスの債務についても相続することはなくなります。

 

 

(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
民法939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

 

 

相続人の一人が相続放棄した場合,相続放棄した相続人は初めから相続人とはならなかったものとみなされますので,遺産全体について他の相続人がその相続分に応じて相続することになります。

例えば,相続人が配偶者と長男,二男の3名で(相続分は配偶者2分の1,長男と二男が合わせて2分の1),二男が相続の放棄をした場合,配偶者と長男の相続分は,遺産全体に対して2分の1づつになります。

 

 

相続の放棄に対して,よく似た言葉で「相続分の放棄」というものがあり,特に民法に規定されているわけではありませんが,相続開始後遺産分割の間であれば,相続人の一人はいつでも相続分の放棄をすることができ,方式は問わないものとされています。実務上は,本人の意思を明確にするため,本人の署名と実印の押印をした書面の作成と,印鑑証明書の添付をするのが通常です。なお,相続分の放棄においては,相続放棄と異なり,債務の承継まで拒否することはできません。

遺産分割調停や審判が係属した後であっても相続分の放棄は可能であり,この場合,手続きからの脱退届を裁判所に提出させているのが実務です。

 

 

 

相続分が放棄された場合の他の相続人の相続分についてどう考えるかについて,実務上は,共有持分権を放棄する意思表示であると解したうえで,相続分放棄者の相続分は,他の相続人の相続分に応じて他の相続人に帰属すると考えます。

具体的な計算方法としては,相続人放棄者以外の相続人の各相続分を合算した合計を1とした場合の,各相続分の修正割合を新たな相続分とするものとし,具体的には,相続分放棄者以外の相続人の各相続分の合計の逆数を各相続分に応じて求めることになります。

先ほどの例でいえば,

相続分放棄者以外の相続人の各相続分の合計 2分の1+4分の1=4分の3(その逆数は3分の4)

・4分の3を1として

・配偶者の修正割合 4分の3:1=2分の1:X

              X=2分の1×3分の4=3分の2

・長男の修正割合  4分の3:1=4分の1:X

              X=4分の1×3分の4=3分の1

すなわち,相続放棄の場合には遺産全体の2分の1づつが配偶者と長男の相続分となったのに対して,相続分の放棄においては,あくまでも二男の相続分をそれぞれの相続分に応じて分け合うことになるので,遺産全体に対する相続分がそれぞれ3分の2,3分の1となります。