判例時報2351号で紹介された事例です(広島家裁平成28年11月21日審判)。
本件は,幼い時に両親が離婚し,親権者となった父親や父方の祖父母らによって養育されていた高校3年生の未成年者が(幼少のころから気に食わないことがあると父親から殴る蹴るなどの暴力を受けていたことがあったと認定されています),県外での就職希望を父親に伝えたところ,父親が激高して包丁を首筋に突き立てて「殺す。」と言われたりしたため怖くなり着の身着のまま家出をして約1か月間,野宿などをしていたところ,警察に保護され,自立援助ホームで生活するようになったというものです。
児童相談所の職員や自立援助ホームの弁護士から父親に対し連絡したものの,父親は「今後一切関わるつもりがない。」「縁を切る。」「裁判所からの郵便物も送らないでほしい。」などとと回答し,就職手続きへの協力や未成年者が自宅に置いたままにしてきた制服等の引き渡しも拒否する,本件の審判期日へも出頭しないという有様でした。
未成年者が決まっていた就職先からは,期限を定めてパスポートの写しを提出するように求められており,また,自動車の運転免許取得も求められていたところ,これらにはいずれも親権者の同意が必要となるところ,前記したように父親からの協力が得られなかったことから,児童相談所長により本件の申立てがなされ,裁判所は,「親権の講師が困難又は不適当であることによりこの利益を害する」(民法834条の2第1項)と判断したうえで,就職やパスポートの提出などの期限が切迫していることなどから,保全の必要性もあるとして親権の停止の仮処分を認めたものです。
民法第834条の2 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
児童福祉法第33条の7 児童又は児童以外の満二十歳に満たない者(以下「児童等」という。)の親権者に係る民法第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項、第八百三十五条又は第八百三十六条の規定による親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判の請求又はこれらの審判の取消しの請求は、これらの規定に定める者のほか、児童相談所長も、これを行うことができる。