判例時報2342号で紹介された事例です(東京地裁平成28年12月26日判決)。
本件で裁判所に認定された事故の概要としては,ドッグランで小型犬を遊ばせていた被害者が,同じドックランで大型犬2頭(いずれも体重約27キロ)がじゃれ合う中で興奮の度合いを高めていき,追いかけ合うなどして走る速度を上げながら,出入り口付近にいた被害者のいる方向に駆けてゆき,被害者と衝突するに至ったというものです。
飼い犬である動物が他人に対し損害を与えた場合については民法718条に規定があり,原則としてその飼い主(占有者)が責任を負うこととされ,飼い主が相当の注意を払っていたことを証明した場合に限り免責されることとされています。
動物の占有者等の責任)
民法第718条1項 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
本件において,裁判所は,本件事故が起こったのが自由に犬を遊ばせるためのドッグランとはいえ,飼い犬が予測不能の行動に出ることは十分にあり得ることを前提として,これを監視し,適時適切に制御できること必要であるとし,一般的な文献においても,ドッグランの利用にあたっては「呼び戻し」ができることが鉄則とされており(本件施設においても,雰囲気に十分にならしたうえでリードを放すこと,飼い犬から目を離さないように注意することという規定があった),本件のような体重が約27キロもあるような大型犬においては特にその必要性が高かったと言えるところ,本件大型犬の飼い主である被告側においては「呼び戻し」のしつけをしたことすらないと述べており,また,大型犬を十分に監視していたことについては疑問があるさとの判断がなされ,大型犬の飼い主は,相当の注意を払っていたものとはいえないと判断されました。
なお,被害者側においても,他の利用者の飼い犬が自由に走り回っている状況であることを前提として行動すべき面があることは否定しえないと手して2割の過失相殺がなされています。
本件と同様にドッグラン内での事故に関し東京地地裁平成19年3月30日判決がありますが,この件では,飼い主は相当の注意を払っていたとして免責されています。
この件では,本件のような出入り口付近にいた被害者に衝突したというものではなく,被害者が犬が自由に走り回っているドッグランのフリー広場中央部で犬と衝突したというものですが,そのような場所に人間が立ち入ることは,危険な行為であり,異常な事態に当たるから,そのような事態を予見して,飼い犬の動向を監視し,制御することは必要ないというべきであるとされ,飼い主において,そのような者の現れる事態を予見して,飼い犬の動向を監視し,制御すべきであったとはいえないとされています。この件では,被害者側の供述に少し不自然な点があったり,事故後の交渉において過大な金銭を要求するなど,裁判所の心証を害するところが見受けられたようです。