今般の民法改正(平成29年6月2日公布)においては,錯誤の規定が改められています。

 

 

従来の現行民法の錯誤に関する条文は次のようなものです。

 

(錯誤)
現行民法第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 

これが次のとおり改められています。

 

(錯誤)
改正民法第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

 

概ね,従来の判例の立場を条文に反映したものとなっていますが,主な改正点としては次のとおりです。

・「売るつもりもないのに売るという意思表示をした」という従来「表示行為の錯誤」と呼ばれていた錯誤については,95条1号1号で「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」と規定されました。

・従来,判例上,明示又は黙示に表示されていた場合に認められ得るとされていた動機の錯誤についても表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」として明文化され(95条1項2号),かつ,それが法律行為の基礎として表示された場合に限り(95条2項),認められることとされました。

・表示行為の錯誤,動機の錯誤のいずれにおいても,「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」(95条1項柱書)に限り,錯誤として認められることになります(従来,「法律行為の要素」の錯誤であるときに限り認められていたものを明文化したもの)。

・錯誤の効果は,従来「無効」とされていましたが,改正民法では「取り消す」ことができる行為とされしました。従来も,錯誤無効については表意者のみが主張できるとされていたので,実質的には取消と変わりはないとされていましたが,明文上の取消権の期間行使制限に服すること(追認可能時から5年間)になるなどについては違いがあることにになります。

・表意者に重過失が認められるときに表意者が錯誤を主張することができないのは従来と同様ですが,相手方が表意者の重過失を知っていたとき(重過失で知らなかったときを含む),相手方も同様の錯誤に陥ってとき(共通錯誤)にはなお主張できるものと明文化しています(95条3項)。

・従来の錯誤無効の規定には第三者保護規定が明文化されていませんでしたが,今回,第三者保護規定が規定されました(95条4項)。