http://www.sankei.com/affairs/news/170821/afr1708210020-n1.html

 

 

 

「取引で使っている口座が突然止められた。警察に言ってもらちがあかない」

 盛岡市の男性会社員(44)は約10年前に車上荒らしに遭い、キャッシュカードを盗まれた。カードの口座が「犯罪に悪用された」として、同じ名義で別に開設していた取引口座も利用できなくなった。凍結対象として金融機関に通知したという関西の警察署に相談したが、解除に応じてもらえないままだ。

 弁護士や司法書士で作る「大阪クレサラ・貧困被害をなくす会」には近年、口座凍結に関する相談が相次いでいる。昨年10月に凍結の運用改善を求める申し入れ書を全国銀行協会(全銀協)、警察庁、金融庁に提出したが、その後も全国から50件以上の相談が集まった。このため今年7月、無関係な口座は凍結解除に応じるなどの対策を取るよう、改めて申し入れを実施した。

(8月21日産経ニュースから一部引用)

 

 

「振り込め詐欺防止法」「振り込め詐欺救済法」と呼ばれることが多いですが,正式名称は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」といい,これが,記事にある口座凍結の根拠法となります。

 
 
犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律
第3条  金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする。
 金融機関は、前項の場合において、同項の預金口座等に係る取引の状況その他の事情を勘案して当該預金口座等に係る資金を移転する目的で利用された疑いがある他の金融機関の預金口座等があると認めるときは、当該他の金融機関に対して必要な情報を提供するものとする。
 
 
警察や弁護士などが闇金融やオレオレ詐欺などに利用されているという疑いのある口座を見つけた場合,当該口座の金融機関に対して凍結の依頼を行うと,金融機関は口座の凍結を行ってくれます。
本当にそのような口座なのであればよいのですが,記事にあるように盗難であったり,当該口座の名義人自身が実は闇金融の被害者で組織に口座を作らさせていたりするというケースもありますし,オレオレ詐欺のグループが使っていた口座から正当な取引で出金されていた先の口座(例えば,電話の利用料であったりなど)も犯罪利用口座として紐づけられて凍結されてしまうということもあります。
 
 
口座を凍結された場合,凍結した主体はあくまでも当該金融機関なのですが,その金融機関に文句を言っても対応はしてくれず,凍結を要請した警察や弁護士から解除の依頼をしてもらってくれと言われます。
 
 
ただ,警察や弁護士も「疑い」レベルで凍結ができてしまうので完全にその口座がシロであると明確にならなければ凍結の解除はしてくれないことが多いです。
 
 
そのまま放っておくと,当該口座の預金を(被害にあったことを立証した)被害者に対し分配するという手続きが始まり,預金は消滅してしまうことになります。分配されなかった預金は預金保険機構に納付されます。ただ,手続きの中で異議を出しておくことで手続きはストップし,口座はいつまでも凍結された状態となります。
そして,当該対象預金口座等の利用の状況及び当該対象預金口座等への主要な入金の原因について必要な説明が行われたこと等により、当該対象預金口座等が犯罪利用預金口座等でないことについて相当な理由があると認められる場合には,口座凍結が解除され,預金の払い戻しを受けることができるようになります。
 
 
 
預金者としては,警察などにいろいろと説明して凍結を解除してもらうように働きかけますが,どうしても解除してくれなければ訴訟するほかなくなりますが,その際は,その口座がどのような利用をされていたのか,入金や出金されたお金の説明などをしなければならないことになります。
裁判例においては,不法滞在の中国人が日本滞在中にアルバイトで稼いだお金である約500万円について,口座を凍結された理由であるオーバーステイに関する警察から金融機関に対する捜査事項照会と口座の利用とは無関係あることなどから口座からの払い戻しが認められたというケースがあります(松山地裁平成28年2月10日)。
 
 
 
警察などが金融機関に対して口座の解除要請をしない限り,いつまでも口座は凍結されたままになっているわけですが,それでも,凍結するのに合理的な期間を経過したのであれば凍結を続ける根拠はないと考えられますから,例えば,不法行為の消滅時効である3年間とかを目途にして警察等や金融機関に対して「被害者とされる人からの請求もないのであるから凍結を解除するように」求めることで,さすがに警察も凍結解除に動くことになるものと思います。その期間も待てないということであれば訴訟するということになりますが,口座の利用が犯罪とは無関係であると明確に立証できない限りは凍結解除はなかなか難しいということになります。