判例タイムズ1436号で紹介された事例です(最高裁平成29年3月13日判決)。

 

 

本件は消滅時効の中断がされたかどうかが争点となった事案です。時効の中断とは,進行中の時効期間がゼロに戻る(リセットされること)ことを言います。時効の中断があると,進行していた時効期間はゼロに戻り最初からリスタートとなる点で,時効の停止(進行していた期間はそのままで停止事由が消滅することによりその時点から時効期間が進行する)と異なります。

 

 

本件は,もともと,Aが訴外Bに7億円を貸し付けていたところ,その内の約1億円についてCに保証してもらうことになり,ただ,そのための書類として,保証契約書を作成するのではなく,1億円をAがCに対して貸し付けたという内容の公正証書を作成することとしたものです。

 

 

公正証書に定められた貸金債権の初回弁済期から10年間の消滅時効期間が経過する直前に,AからCに対して支払督促の申立てがなされ,その後,仮執行宣言も発せられたため,公正証書記載の「貸金債権」については時効が中断しました(民法150条)。

 

 

(支払督促)

民法第150条  支払督促は、債権者が民事訴訟法第三百九十二条 に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。

 

 

しかし,Aはさらにその後10年近くCから回収もできなかったのか,時効が中断された「貸金」請求権の2度目の消滅時効が近づいた時期に,Cに対する訴訟を提起したわけですが,その内容は,もともとの趣旨であった「保証履行請求権」に基づく請求でした。

 

 

保証履行請求権についてはもともと保証した時から10年以上が経過しており,Cは消滅時効が経過していると主張したところ,Aは支払督促によって時効が中断されていると反論し,時効の中断事由が争点となったものです。

 

 

高裁では支払督促の申立て,仮執行宣言の発付により時効の中断があったと判断しましたが,最高裁では,「貸金」請求権と「保証履行」請求権は事実が重なりあるものではなく,自ら金員を貸し付けたとして「貸金」を請求することと保証の履行を請求することは両立するものでもないとして,事項中断の効力を認めませんでした。

 

 

もともと実態と合わない公正証書を作成したり,その後長らく適切な手を打たずに(と思われる),公正証書に基づく強制執行をするでもなく支払督促を求めたり,本訴においては保証の履行請求に基づく請求とするなど,A側の債権管理の仕方がちぐはぐであったような印象が否めないところです。