判例タイムズ1436号で紹介された事例です(東京地裁平成28年7月1日判決)。
本件は,土地の所有者である姉が,同土地上に複数の建物を保有し,居住,動物病院として利用していた弟に対して,使用貸借の使用収益期間が満了したと主張して,建物の収去および土地の明け渡しを請求したという事案です。
使用貸借契約は,いわゆる「タダ貸し」であり,そのために賃料が発生する賃貸借契約に比べて借主の権利保護の面は弱く,契約に期間が決められていればその期間満了をもって,契約の目的として定められた使用収益をするのに足りる期間が満了したときはその時をもって契約は終了し,契約の目的も定められていなければ貸主が求めた時にはいつでも契約を終了させることができるものとされています。
(借用物の返還の時期)2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
使用貸借契約は親族間で問題となることが多く,本件も,もともと,当該土地は,姉弟の祖父が昭和26年という大昔に国からの払い下げで入手した際に,祖父の主導により姉の所有とされ,以降,姉弟の父親の主導により建物が建てられ,最終的に弟が経営する動物病院の経営や弟が住むための弟単独名義の建物が建てられていたという状況でした。
本件では,民法597条2項但し書きの「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき」が経過したかという点が問題となりました。
この点の判断については,経過した年月,土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情,その後の当事者の人的つながり,土地使用の目的・方法・程度,貸主の土地の使用を必要とする緊急度など諸般の事情を総合的に比較衡量して判断するものとされ,そして,使用開始から長期間経過しその後に当事者間の人的なつながりが著しく変化したなどの事情が認められる場合には,借主が他に居住する場所なく,貸主に土地を使用する費用等の特別な事情が生じていないということのみでは,「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき」という要件を否定するには不十分であるとされており(判例),本判決もこれに従っています。
賃貸借契約であれば,借主である弟が居住している,動物病院を営んでいるという点は重視される要素となりますが,使用貸借においては,この点のみでは借主が勝つためには不十分ということになります。
本件では,建物の建築から長期間が経過しており,その間,姉は土地の収益を全く得られていなかったのに比べて弟は自宅や動物病院の建物として利用して十分に利用できていたこと,父親の死亡後,姉弟を含む親族間の争いが発生し,当事者の人的なつながりが著しく変化したといえることから,前記判断基準に従って,姉からの請求を認め,何十年も同じ場所で生活し,事業も営んできた弟にとっては相当厳しい結論となりました。