判例時報2331号で紹介された事例です(福岡高裁那覇支部平成28年7月7日判決)。

 

 

本件はAとBの2社から成る共同企業体(JV)の代表者であるA社が破産し,A社はJVの資産の保全を図るため,A社が依頼した司法書士の口座に請負代金相当額を預け,司法書士は,預かったお金を「これはJVの請負代金である。」と説明したうえで裁判所に予納しましたが(裁判所の書記官が全額を予納するように求めていた),その後,A社の破産管財人が裁判所に対して予納されたお金を破産財団に組み入れるように求めたため,裁判所はお金を管財人口座に送金しました。

 

 

B社としては仕事をした請負代金はA社のものではなく,JVのものであると主張して管財人に対して返還を求めましたが,拒否されたため,破産法148条1項5号の財団債権に該当するなど主張して提訴したというのが本件です。財団債権というのは,他の債権者に優先していつでも弁済を受けられるという,債権者にとっては破産法上最も強い性質を有する権利です。

 

 

(財団債権となる請求権)
破産法第148条  次に掲げる請求権は、財団債権とする。
 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権

 

JVというのは,その構成員であるA社ともB社とも区別されたそれ自体で一つの権利義務の主体となるもので,請負代金を受け取るべき権利もあくまでもJVにあり,A社,B社はJVが受け取った請負代金について経費精算したうえで利益が出れば事前に取り決められた配分に従って分配がされるということになります。

本件のB社としては自分の取り分も含めてすべて管財人に持っていかれてしまったのでそれは納得ができないということで提訴したということになります(ただし,原告としてはあくまでもJVということになります)。

 

 

一審では,請負代金が司法書士に預けられた時点でJVから司法書士に対する不当利得返還請求権が成立し,それは破産手続開始決定前のものということになるからという理屈で財団債権には当たらないと判断しました。

 

 

しかし,高裁では判断が覆りましたが,司法書士が預かったお金はあくまでもJVに対して返還すべき性質のものであり,そのことを説明したうえで予納している以上,裁判所としては,JVの帰属すべき金員であると判明した段階で返金すべきであり,判明するまでの間は,債権者への配当原資となるべきものとは区別して保管すべきであったとし,その後裁判所が予納金を管財人に交付したとしても,JVに帰属する財産であることには変わりがなく,その時点(裁判所が管財人に対して金員を交付した時点)で,JVから管財人に対する不当利得返還請求権が成立するので,「不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権」に該当するとして,JVから管財人に対する全額の返還請求を認めました。

 

 

JVに返還された金員については経費精算されたうえで,利益が残ればA社が受け取れる分配金については,A社の破産管財人が分配を受け取るということになります。

 

 

本件はJVという法律主体であることがより一層混乱に拍車をかけましたが,破産の申し立てに際して破産者からお金を預かるということはいくらでもあるのですが,その中にどのような性質のお金が含まれているのかという点については注意が必要です。本件では書記官からJVの請負代金全額について裁判所に予納するように求められていたようですが,本来,そのお金で下請け業者などの経費の支払いもされるはずのものであったはずで,いったん凍結された上に全額管財人のものになるということではJV(B社)としてはとても納得がゆかなかったはずであったことは容易に想像がつきます。