判例タイムズ1436号などで紹介された事例です(最高裁平成29年2月28日判決)。

 

 

相続税は遺産の評価額を基準として課税されるものですが,昨今の相続税の課税基準引き下げによりこれまでは課税対象とはならなかったケースについても課税されるということが頻発しているという印象です。

 

 

というわけで,相続人(納税者)としては遺産の評価額を引き下げることでなるべく課税されないようにしたり,納税額を低く抑えようとしたりするわけですが,本件で問題となったのは私道についてどのように評価すべきかということでした。

 

 

遺産の評価基準については相続税法22条に総則的な規定があるのみで,実際には国税庁の通達により運用されているところ,一定の場合には登記上は宅地となっていたとしても,「私道」として減額評価とするということとされています。

 

 

(評価の原則)

相続税法第22条  この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 

 

本件で問題とされた私道は,相続人以外の第三者も自由に通行することができるような状況のものであり,私道を設けたのは住宅を建築する際に,そのような通路を設けることを許可の条件として行政側から提示されたという経緯でした。ただし,本件の私道は,建築基準法などの法令によって利用を制限されているものではありませんでした。

 

 

高裁までの裁判所の判断としては,本件私道は法令上利用を制限されているというわけではないのであるから,その所有者が自由に利用することができ,私道としての利用を廃止することもできるわけであるから,私道とは言えないと判断していました。

 

 

しかし,最高裁においては,遺産の評価は被相続人の死亡時点における当該遺産の客観的な交換価値(わかりやすく言うと市場で処分する場合の価値)をいうところ,一定の場合に減額評価されるのは,そのような交換価値が減じられているからである,そして,本件の私道については,法令上の制限はないとしても,事実上第三者による自由な通行の利用に供されているものであり,そのような状況の土地を自由に処分して私道以外の用途に転用することが容易であるとは言えないから,このような点を見過ごして判断した高裁までの判断については容認できないとしたものです。