判例時報2331号などで紹介された事例です(東京高裁平成28年6月15日決定)。

 

 

本件は,被害額400万円のオレオレ詐欺事案について,受け子(被害者のところまでお金を取りに行く役目)として関与した少年に対し,家庭裁判所が第一種少年院への送致を決定したのに対して,高裁において処分が著しく不当であるとして差し戻しとされたという事例です。

 

 

家庭裁判所の決定においては,本件の組織性・計画性,子を思う親心に漬け込む悪質性,被害額が多額であること,少年に自身の問題性や犯罪への問題意識が十分に高まっていないという点を処分の理由として挙げました。

 

 

これに対して,高裁の決定においては,まず,そもそも本件においては少年がすぐに逮捕されたため(被害者と少年のやり取りを見ていた通行人が不振に思って声をかけたとのことです),被害金は被害者のもとに戻っており実質的には未遂事案であるといえることが指摘されています。少年事件においては示談や弁償したからといって処分が必ずリンクするというわけではないものの,それでも示談や弁償(本件ではたまたま被害金が戻ったというにすぎませんが)を通じて少年の内省を促すということにつながるとして評価されることが多く,成人事件同様に被害回復ということは重視されるものと思います。

 

 

そして,オレオレ詐欺の悪質性については家裁の言うとおりであるとしても,本件の少年の関与の度合いとしては高いものとはいえないこと(組織の全容は知らされておらず報酬も低額にとどまっていることなど),少年には補導歴と万引きによる前歴(審判不開始)はあるものの,非行歴が進行しているとみられるだけの友人関係があるとは見られないこと,現在は高校に通学して通常の生活を送っていたこと,母親の指導に大きな問題があるとは言えないことなどを挙げて,現段階で社会から隔離して少年院に収容するまでの必要性が高いとはいえず(なお,鑑別所や調査官の意見としても少年院での長期収容が必要との意見にはなっていなかった),在宅処遇の可能性を十分に検討しなかった家裁の処分は著しく不当であるとの判断がされています。