判例時報2329号などで紹介された最高裁判決です(平成28年12月1日判決)。

 

 

民事執行法81条は,土地建物が同じ債務者の所有に属している場合において,土地か建物のどちらか一方のみに差押がなされ,その後,執行によって土地と建物の所有者が別々になったとしても,法定地上権が成立すると規定しています。

 

(法定地上権)
民事執行法第81条 土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

 

これは,法定地上権が成立しないとすると,建物を競落した競落人は建物を取り壊して土地を明け渡すことを求められることになり建物を競落する意味がなくなるし,土地が競落された場合にも同様に建物の占有権限が無くなってしまい建物の取り壊しを求められるとすると社会経済上の損失が大きいという観点から設けられたものです。

 

 

本件は,建物を仮差押えした時点では土地と建物が同一の所有者に帰属していたが,その後,土地が第三者に対し譲渡され,本執行の競売の時点では土地と建物所有者が別々になっていたという事案です。

 

 

条文だけ見ると,「その売却により」土地と建物の所有者が別々になった場合を規定しており,高裁においては,この条文の字句を重視し,また,土地を譲渡する時点で土地の使用権を設定することも可能であり,つまり,法定地上権に依らずとも建物の維持を図り社会経済上の損失を回避することが可能であったと考え,法定地上権は成立しないと判断しました。

 

 

しかし,仮差押えを掛けた債権者の立場から見ると,仮差押えにより担保されていた価値としては当該土地の上に立っている建物なのであり,土地と切り離されて取り壊しを余儀なくされるような建物であれば担保価値はなかったということになります。

また,土地が譲渡される時点で,建物の維持が維持が図られるような利用権限の設定が確実にされるという保証もありません(建物の所有者にとっては仮差押えされている建物の維持には関心が払われないことも多いかと思います)。
 

 

最高裁においては,このような観点から,本件のような事案においては,法定地上権が成立すると判断して,仮差押え債権者の利益保護を重視する判断をしました。