判例時報2328号で紹介された事例です(東京地裁平成28年3月30日)。
自筆証書遺言は,全文,日付,氏名をすべて自書しなければなりませんが(民法968条1項),日付について,実際の作成日と異なった日付が記載されていた場合,遺言の効力をどのように考えるべきかという問題があります。
この点,意図的にではなく錯誤により誤記した場合については,誤記であることは明白で真実の作成日付が明らかである場合には無効とはならないものと考えられていますが,意図的に不実記載した場合にどのように考えるべきかという問題があり,一般的見解としては無効と考えられておりね本判決もそのような見解に沿ったものです。
本件は,被相続人の長男と長女による争いですが,被相続人の生前,既に認知症の症状が出ていた時期に長男が被相続人の意思としてその所有名義の不動産を売却したことを長女が知るに至り,その後,被相続人が死亡し,不動産を含むその他の遺産について長女に相続させるという遺言が出てきた際に,その作成日付が前記長男による不動産売却手続きの完了の日と同日となっていたというものです。
裁判所は被相続人が意図的に作成日付を遡らせたものと認定し(長女は検認前後に登記の申請相談・手続きをしていたことから,封印された中身の遺言の記載内容を検認の前にすでに知っていたと認定されましたが,いつ知ったかという点について,前記不動産売却の後に祖遺言の内容を知らないことを前提とする言動をしていたことから,不動産の決済後検認の間に遺言の内容を知ったものと考えられ,被相続人が不動産の決済をしていたことからその日付けであれば認知症であった被相続人の判断能力に差支えはないと考えてその日付にしたのだろうと判断されました),そのような遺言については日付の自書を欠くものと判断し無効と判断しました。
判旨を読むと,長女が遺言を偽造したかのようにも推測できますが(長男側は遺言の偽造による長女の相続欠格を合わせて請求しています),長女の関与があるとしても筆跡などから被相続人が自書していないとまではいえず,長女が偽造したとまではいえないと判断されています。
遺言が無効であると判断された場合においても,偽造による相続欠格まで認められるのはなかなかハードルが高いというのが実感です。