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電車の中で痴漢を疑われた人が線路内に逃走し、電車の運行に遅れが生じるというニュースが相次いでいる。人命が失われたケースもあった。痴漢は許し難い犯罪だが、本当に身に覚えがない時はどうすればいいのか。「とにかく逃げる」「名刺を置いて立ち去る」など、ネット上では様々な対処法が紹介されているが、中にはあまりおすすめできない対応もあるようだ。『痴漢に間違われたらこうなります!』という本を監修した弁護士の坂根真也さんに聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 田口栄一)
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(5月25日読売新聞オンライン)
痴漢に間違われた時にどう対処するかということが話題となっています。
逃げるというのはダメで,その場で弁護士を呼ぶ,ということが一つの対応方法として提唱されており,記事においても勧められています。
しかし,弁護士として辛いのは「逃げずにきちんと説明したら絶対に大丈夫なのですか?」と問われることで,「絶対大丈夫です」と答えられる弁護士はまずいないでしょう。
ここでいう大丈夫というのは,最終的に無罪となるということ以外に,逮捕も勾留もされない(身柄拘束されない)ということですが,記事にもあるように,確かに最近の裁判所の実務では痴漢については勾留はしないという方針が定着しているようですが,確実なことはあまりいえません。
その場で私(弁護士)に電話を掛けられて「どうしたらいいですか?」と問われて,「とにかくやっていないと言いなさい。」とアドバイスするだけでは,「そんなこと分かってるよ!」と怒鳴られそうです。
私が自分だったらどうするかなと考えたとき,とりあえず,スマートフォンの動画で,相手の女性の言い分、自分の言い分を録音しておくこと,でしょうか。
というのも,痴漢冤罪事件などにおいて,女性の供述(証言)が変遷したり,客観的な事実と合致していないということで無罪となったりするケースが多くあり,まさに事件の現場でどのような被害を受けたのかということをしっかり記録しておくことは必要ではないかと思われるからです。
客観的な事実と合致しているかどうか,という点でいうと,痴漢事件などにおいては,警察において,微物鑑定といって,被疑者とされた人の手のひらや指にペタペタとシートを張り付けて,繊維の成分を鑑定することが多いではないかと思います。
そうすると,例えば,現場での録音に「指で下着を触った」と録音されていた場合に指から下着の繊維が検出されていなければおかしいといえます。これが当初の録音がなかったという場合に,「手の甲でスカートをしつこく触られた」と供述が変わっていてその調書しかなかったとすると,満員電車で手の甲が女性のスカートに触れていたこと自体は事実だったとすると,手の甲からスカートの繊維が検出されてしまうと女性の言い分と合致してしまうことになります。実際には,最初に出す被害届に当初受けた被害の状況が記載されているので,最初の被害状況がここまで違ってくるということはないとは思いますが,それでも事件現場での録音が記録されていたとすれば供述の迫真性や臨場感が違ってきます。
その場で女性の言い分を聞いていた駅員などから証言してもらえばよいではないかと思われるかもしれませんが,実際に裁判になったときには事件からずいぶんと日数が経過していますので,「あまりよく覚えていない。」などと言われ逃げられてしまうことも多いものです。
微物鑑定で繊維成分が出なかったとしても,「実際には付着していたが落ちてしまったのだ。」などと反論を受けることがあります。
どこまで効果があるかは分かりませんが,私だったら,「今から警察で微物鑑定してもらいます。手も洗わないしこれから手を握ったまま何も触りません。」とでも録音録画しておくでしょうか。
また,その現場での自分の立ち位置とかどのような態勢であったとかといったこと(自分の言い分)についてもその場で記録しておくことが必要に思います。