判例タイムズ1431号で紹介された事例です(東京高裁平成27年2月27日決定)。
 
 
本件は,婚姻歴がなく法定相続人もいないまま死亡した被相続人の母方のいとこ4名,父方のいとこ1名が,民法958条の3の特別縁故者に該当するとして財産の分与を求めたいのに対し原審である家庭裁判所が,申立人5名を特別縁故者であると認定したうえで,合計9550万円相当の財産の分与を認めたに対し,申立人の一人が,自分と同等の財産分与を認められた者と比較して取り分がもっと多くあるべきだと主張して抗告したという事案です。
 
 

(特別縁故者に対する相続財産の分与)

民法第958条の3  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
 
高裁においては,本件で特別縁故者を主張する者すべてにおいて,そもそも特別縁故者に該当するのかについて十分な裏付けがされているとはいえず,また9500万円もの財産の分与が認められるだけの関係性があったかについても疑問があるとして,本件について,そもそも特別縁故者であるかどうか自体についてさらに審理すべきであるとして差し戻しとしたものです。
 
 
高裁が原審の決定について疑問視した事情として,特別縁故者として認められるためには単なる親戚づきあいという関係だけではなく,そのような関係を超えたもっと親密な関係があることを必要と考えられるとの前提のもと,原審は本件の被相続人は父親が戦死した後,母親の実家に身を寄せ,母方のいとこである申立人らと同居していたことを指摘しているものの,その時期は被相続人が2歳から3歳の一時期であり,それ以降60年以上も被相続人と同居したという事情はないこと,また,一緒に旅行に行くほど関係が親密だっという申立人からは旅行先での写真の一枚も提出されておらず,申立人らが主張する関係性についての裏付けは陳述書等のみであって客観的な資料もないことなどでした。
 
 
本件は,原審家庭裁判所に差し戻され,高裁の指摘を前提として再審理されることになりますが,場合によってはそもそも特別縁故者性自体を否定され,取り分ゼロということもあり得るところです。
原審の決定(抗告した申立人に認められたのは2500万円相当の財産の分与でした)のままにしておけばよかったものをと思われるところです。
 
 
ところで,特別縁故者として財産の分与を求めた場合に,却下された場合には申立人が即時抗告することができ,認められた場合には,金額に不服であるとして申立人はもちろんのこと,相続財産の管理人も即時抗告することができるとされています(家事事件手続法260条1項)。ただ,相続財産の管理人にはそこまでして争うメリットもないので,本件でも抗告人として名を連ねているわけではないようです
 
 
(即時抗告)
家事事件手続法第206条  次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
 特別縁故者に対する相続財産の分与の審判 申立人及び相続財産の管理人
 特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てを却下する審判 申立人
 第二百四条第二項の規定により審判が併合してされたときは、申立人の一人又は相続財産の管理人がした即時抗告は、申立人の全員に対してその効力を生ずる。
 
なお,本件で抗告した申立人以外の者(一人は2500万円,その他の人は1500万円相当の財産分与が認められていました)にとっては,良い迷惑というところですが,家事事件手続法206条2項によって抗告した者以外の者にも抗告の手続きの効力が及ぶとされ,また,民事訴訟事件の手続きと異なり,家事事件では不利益変更禁止の原則の適用はないとされていることから,原審の決定で抗告した者に認められていた2500万円は最低限のラインとしては保障されず,不服のない者についても抗告手続きに巻き込まれた結果,その後の差戻審理でゼロになる可能性もあるということになります。