判例タイムズ1425号で紹介された事例です(平成27年9月11日札幌家裁滝川支部審判)。

 

 

本件は、もともと炭鉱労働者であった被相続人について、昭和59年頃から住んでいた市が特別縁故者(相続人がいない場合に遺産の全部または一部の分与を受けることができる者)に該当するかどうかが争点となったという事案です。

 

 

市が特別縁故者であると主張した理由としては、平成24年から被相続人について介護予防支援事業契約を締結し(費用は全額介護保険からの給付となる)、通常よりも手厚く訪問するなどして対応してきたこと、また、被相続人死亡後は火葬にして市が管理する墓地に埋葬するなどしたということでした。

 

 

相続人がいない人が亡くなると相続財産管理人が選任され、債権者に対する支払いも終えてなお遺産が残ったという場合に特別縁故の申立があったときには裁判所から意見を求められますが、本件において、相続財産管理人の意見としては、市を特別縁故者と認めて遺産を分与するのが相当という意見でした。

 

 

率直に言って、債権者への支払も済ませており、相続財産管理人もOKと言っているのだから、そのまま認めてしまってもよいような気もしますが、本件では、市は特別縁故者には該当しないとして、申立てを却下しました(全額国庫に行くことになります。なお本件の遺産としては約1073万円の預金でした)。

 

 

理由としては分からないでもなく、予防介護事業や火葬埋葬を実施したといってもそれらは法律に基づくものであるということです。また、自治体を特別縁故者として認めて遺産を分与したという審判例もあるにはあるものの、多くは、生前、自治体との関わりが深かったり、自治体に寄付したいという意向を示していたりしていたという事案でしたが、本件では、被相続人が自治体の対応に感謝の念を抱いたであろうことは想像に難くないものの、実際に財産を贈与したいといった言動はなかったことなどから被相続人の意思が明らかではないとしています。

 

 

今後、身寄りのない人が死亡するという事例はどんどん増加するように思いますが、特に、縁もゆかりもないような自治体でたまたま行き倒れてそのまま当該自治体の世話になったというような事案において、当該自治体に対して何の手当もないというのでは、自治体としてのモチベーションとしてもいかがなものかという気もしますので、何らかの立法的な手当てもしていく必要があるのではないかと思います。

 

 

 

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